エテンム

Eṭemmu, Iṭemmu, Eṭammu

地域・文化:アッカド


 エツェンム。
 複数形: エテンムー(Eṭemmū)。
 表意的にGIDIM、GIDÎM, GIDIM₄(UDUG), GUDと表記される。
 古バビロニア、アッカド時代から知られている死者の霊のこと。
 アッカドでは、死者の霊は地下世界に住んでいるとされた。
 メソポタミアの世界観では世界は大きな球体であり、上半球と下半球の境目の径面には、海に囲まれアプスーの淡水に浮かんでいる陸地があった。上の半球には天上の神々が住んでおり、そして下半球はアラッルーとかクルヌギアとかキウトゥシュアなど無数の名称で呼ばれる死者の領域があった。そこは王ネルガルと女王エレシュキガルによって支配され、アヌンナキという神々の集団(または7柱の裁判官)が住んでいた。他にも侍従ナムタルや死者の王らしいギルガメシュ、土器職人ペートゥーなどが冥界の住人として暮らしていた。このような地下世界で、死者の霊の位置はずっと曖昧なままだったが(ある文書では、神々に近いところに住んでいるとさえされる)、後の時代に一部の神学者たちが地下世界を垂直に3つの領域に分け、その最上部分で墓につながる領域にエテンムが住んでいるとした(ただ、これは広く受け入れられたわけではなかった)。
 死者は遺族によって葬られ供養されたが、もし子孫により粗末に扱われたり忘れ去られた場合、その霊は地上に現われて自分の家系に祟ることがあった。また、埋葬されなかったエテンム――人の通らないところで死んだり、焼死したり、溺死したり、刑死したりした人々――は、自分の家系とは無縁である人々を襲い、通りがかりに会った最初の人々に取り憑いて犠牲者にするとされた。
 彼らは白昼に現われることもあったが、とくに夜間、夢の中や人通りの少ない道などで人々おびやかすことが多かった。夢の中に現われれば、それは悪いことの予兆であった。こうした(不帰の国に住んでいるのにも関わらず)地上に現われるエテンムはエテンム・レムヌ(悪いエテンム)と呼ばれ、人々を捕らえ、精神的、肉体的拷問をくわえるとされた。
 エテンム・レムヌによって引き起こされる病状はカート(qât: エテンムの手。精神的な病気)、シビト(ṣibit: エテンムの捕縛。肉体的な病気)、マンザズ・エテンミ(manzaz eṭemmi)などと呼ばれ、この悪霊を追い出すために生者は祓魔儀式を行い、その方法や記録を多くの石板に残した。また、エテンムは例えば「悪いウトゥック、悪いアル、悪いエテンム、悪いガルルが地下世界からやってくる」というような感じで他の悪霊たちと併記され、冥界の神々の命令により人々に懲罰を与える、と考えられるようにもなったらしい。アッシリアの皇太子クムマジュの夢の中では、エテンムはネルガルの宮廷の中におり、雄牛の頭をしているとされた。
 一部のエテンムは神々と親交があり、子孫を苦痛から解放してやったり霊媒師(ムシェール・エテンミ)によって占いをするなど、生者に貢献することもあった。これらはエテンム・ダムク(善いエテンム)と呼ばれたが、悪いエテンムに比べるとその割合は非常に少なく、人々は基本的にはエテンムを悪いものと考えていたようである。

 また、「秘教的」神学注解とかいうものには、神々のエテンムなどというものが述べられている。  「エンリルのエテンムは野性のロバ。アヌのエテンムは狼。ベールは彼らを草原に歩かせた。彼(アヌ)の娘たちはガゼル。主は彼女らを草原に歩かせた。ティアマトのエテンムはラクダ」。

関連項目


参考資料 - 資料/193:;資料/CAD, s.v.; 資料/271


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Last-modified: 2010-06-28 (月) 05:59:52