ジフ†Divŭ, Divъ
Дивъ 地域・文化:古期ロシア 「悪魔」、「精霊」。 この言葉が興味深いのは、語源がおそらく中期ペルシア語か新ペルシア語の「悪魔」デーウ(dēv)だからである。デーウはその源がアヴェスター語(古代イラン語の一つ)の「悪魔」を意味するダエーワ(daēuua)にさかのぼるが、先史時代はさらにサンスクリットの「神」を意味するデーヴァ(deva)と同一起源の印欧祖語*deiwosに端を発する概念であったと考えられている(このあたりの詳細はダエーワの項目を参照)。この印欧祖語から派生した多くの語は、ラテン語のデウス(deus)や古ノルド語のティール(Týr)をふくめ、いずれもイランとスラヴを除いてすべて善性の肯定的な「神」を意味することが知られている。完全な意味の逆転がイランと、(地理的に隣接しているといえなくもない)スラヴにおいて並行的に起こったとは考えにくいため(そう主張する学者も少数いるが)、ペルシアから直接、あるいはテュルク系民族を通じてスラヴへとこの語が伝わっていったのではないか、と考えられている。スラヴ語にはジフと同じくイランでのみ「神」を意味するボグ(bogъ)が借用されているということもこの説を補強している。 ディーン・ワースはジフの現れる詩節構造を分析して(上述『イーゴリ』106-108)、「ジフすでに大地を襲う」は、インド・ヨーロッパ語族古層に想定される「鳥の姿をした神が大地の女神を襲い、妊娠させる」という神話の約められたものが意味を忘却されたのちも詩人たちの定型句として残っていたのではないか、という説を提示している。この場合、ジフは東スラヴの神セマルグル(<スィームルグ)と直接つながりを持つことになる。また106節からの「恥辱」「暴虐」「大地」がジョルジュ・デュメジルのいう三機能に当てはまる可能性も現れてくる、ということをワースは示唆している*1。 関連項目† |