ユニコーン

Unicorn

地域・文化:ヨーロッパ


 一角獣。一般的に、白い馬の姿で額から長い角が一本伸びている。その角でどんな敵も串刺しにしてしまうが、純潔な乙女の前では弱くなってしまうという*1
 図像的には、一角獣の蹄は割れていることが多い。例えばゲスナーの『動物誌』

原典その1 クテシアス

 ヨーロッパに伝わる「一角獣」の原典だとされるのが、クテシアスの『ペルシア誌』である。クテシアスはペルシア宮廷の医師として数年イランに滞在したが、そのときペルシアよりも東にある「インド」についての見聞をまとめた。それはかなり荒唐無稽なものでギリシア・ローマ時代もすでに信用しない人は多かったらしいが、ヨーロッパでは、イスラム教の隆盛や中世の閉鎖的な世界観などにより、大航海時代に至るまで長らくヨーロッパより東の地域に関するほとんど唯一の情報源となっていた。
 クテシアスの著作は直接残っているわけではなく、他の人の著作に、引用という形で断片が残されている。アイリアノスの『動物の特性について』4巻42章はクテシアスの引用で、一角獣について次のように書かれている。
 インドには馬ぐらいの大きさの「野生のロバ」がいる。この動物の身体は白いが、頭だけは紫色で、その中でも目は深い青色をはなっている。この動物の額からは、だいたい1.5キュビトの角が生えている。角の根元の部分は白く、上部は真紅で、中ほどは漆黒である。インドの高位の人々はこの角から飲料容器をつくり、金をまいて装飾する。また、この容器から飲むものは不治の病にかかることがないともいう。痙攣や癲癇とは無縁になるし、毒にやられることもない。また、単蹄である。この野生のロバはどんなロバや馬や鹿よりも足が速い。最初はゆっくり走るが段々と速くなっていき、とうとう追いつけなくなってしまう。メスが子供を産むと、オスもその面倒を見る。このロバは特に荒涼とした平原にいることが多い。だから、インド人たちがロバを狩に行く時は、ロバたちは子ロバをかばって自分で戦う。戦いでは馬や人は沢山角で刺されたり噛まれたりして犠牲を出すが、最終的には槍などで殺される。決して、生きてロバを捕らえることはできない。インド人たちは角を取るが、苦いので肉は食べない。

原典その2 メガステネス

 また、もう1人、メガステネスの著作も、一角獣についての原典とされている。彼の著作も散逸しているが、いくつかの後世の著述家の引用によって一部をうかがい知ることができる。ストラボンの『地理誌』15.1.56[710]では、「メガステネスは、頭が鹿で、一本の角がある馬のことに言及している」と書いている*2
 クテシアスと同じく、アイリアノスの『動物の特性について』21巻20章の、インドの野獣についてのところに、メガステネスの情報を元にした記述がある。それによれば、一角獣の名前はカルタゾノスである。カルタゾノスの大きさは成長した馬ほどで、馬のタテガミがあり、毛は赤く、脚は非常に速い。脚は象のようで関節がなく、尾は豚のようである。角は眉間から伸び、それは滑らかではなく渦巻状に伸びており、色は黒い。そして、非常に鋭い。また、どの動物よりも大きく朗々とした声を出すことができる。
 その性格は荒々しい。他の動物がきても相手にすることはないが、別のカルタゾノスがくると闘争的になる。オスはオス同士で角で戦いあうだけでなく、メスとすら戦うという。そしてその争いは、どちらかが死に至るまで続けられる。そんな性格なので、あまり動物のいない寂しいところで草を食むのが普通である。しかし繁殖期になるとメスとツガイを作っておとなしくなる。そして並んで歩くこともある。繁殖期が過ぎるとメスは妊娠するが、オスはメスから離れて再び孤独な生活を送るようになる。
 インド人たちはカルタゾノスの若い獣を連れてきて、相手のカルタゾーノスと戦わせることがある。しかし、完全な成体が捕らえられたことはない。

 基本的にはこの2人だけが一角獣の直接の資料らしい。どちらにしても、一角獣(片方では「野生のロバ」片方では「カルタゾノス」)は、角が額から生え、普段は孤独に暮らし、成長すると絶対に生け捕りにされることがないほど強い動物となる、という動物であることがわかる。また、「野生のロバ」のほうの角は、それを容器にして飲めば病気が治るし、毒も無害にするという。

アリストテレスと一角獣

 そして、アリストテレスの『動物誌』2巻1章(499b20)にも「インドのロバ」として一角獣が出てくる。アリストテレスは、蹄と角が同じ材料からなるということで、蹄が割れていればその分を角に持っていくことができるので角が多い、蹄が割れておらずつまっていればその分を角に持っていくことができないので角が少ない、という考えを持っていた。そしてまず、2本角のある動物の多くは偶蹄目であるとして(例えば牛、鹿、山羊)、単蹄類で角が2本もある動物はいない、としている。つまり単蹄類で角があるとすれば1本であり、その動物が「インドロバ(ギリシア語でオノス・インディコス)」である。しかし偶蹄類でも一角獣がいないわけではないとして、オリュクスという動物を紹介している。

プリニウスと様々な一角獣

 ローマ時代のプリニウスの『博物誌』8巻31章のインドの野獣についてのところに、一角獣についての記述が見られる。まずは1本角の牛(インドサイ?)を紹介し、それとは別に「最も獰猛な動物」として一角獣について述べている。ここでは一角獣はモノケロスと呼ばれている。頭は雄鹿、足はゾウ、尾は猪、ほかのところは馬に似ている(メガステネスの記述を元にしている)。角は約1mほどの長さである。生きて捕らえることは不可能である。また、角の配置と構造について書かれている11巻45章には「インドロバ」、ラテン語でアシヌス・インディクスとして一角獣が紹介されている。この部分はアリストテレスと同じで単蹄類の中で一角なのはアシヌス・インディクスだけである、としている。同巻106章はひづめの話題で、ここもアリストテレスと同じく、単蹄で唯一一角なのはアシヌス・インディクスで、偶蹄類で唯一一角なのはオリュクスである、と書かれている。この記述をそのまま受け取るとひづめのある一角獣は2種類しかいないことになるが、インド牛とモノケロスはどうなるのか?ひづめではなく単なる爪を持った動物ということになるのか?

 アイリアノスの3巻41章には、インドには一角の馬が、そして同じく単角のロバがいる。また、その角から彼らは飲料容器をつくり、もし誰かが毒を盛ってその人がそれを飲んでも、それがその人を害することはない。馬とロバの角はどちらも毒に対する防御手段になるようである。と書かれている。

ギリシア・ローマ世界に知られていた数種類の一角獣

 以上をまとめると、ギリシア・ローマ時代には、一角獣としては、本来一角であるサイ(インド牛)のほかに、偶蹄類のオリュクス、単蹄類の「インドのロバ」、「一角の馬」、馬のようだが象のような脚のカルタゾノス&モノケロスが知られていたことになる。サイは鼻先に角があり、インドのロバとカルタゾノス、モノケロスは額に角がある。おそらく、一角獣のベースは鹿や馬に似てなくもないアンテロープの一種だったのだろうが、それがそのままギリシアに伝わったのがオリュクス、脚の部分や角の効用などが、同じく一角のサイと一部混同されたのがインドのロバ、カルタゾーノス、モノケロスになった、ということになるのだろう。また、遠い祖先として、クテシアスやメガステネースが「インド」と呼んだ地域に、前2600年~前1800年に栄えたインダス文明における「一角獣」を挙げることもできるだろう。というより、これが本命だろう

聖書の中の一角獣

 このように、古代世界ですでに一角獣という動物はよく知られていたが、現在のイメージに当たるキリスト教社会のユニコーンにたどり着くまでにはもう少し時間がかかる。その第一歩となったのが、少し時代は遡って旧約聖書のギリシア語訳である70人訳、通称セプトゥアギンタにおける誤訳である。
 聖書のヘブライ語原文にはレエムなる動物が登場する。現代では普通に野牛、2角獣と訳されているが、なぜか70人訳では一角獣、モノケロスと訳されてしまった。かくして聖書の世界に一角獣が発見されることとなり、それが「最強の動物」であるという触れ込みとともにキリスト教の伝統に染み込んでいった。ラテン語のウルガタ聖書では、その部分は一角獣として知られていたリノケロス、またはウニコルヌス(一角)とされた。
 明確な端緒となったのは、カイサレアの司教聖バシリウスが聖書の動物として神聖化したところにある。そして、中世ヨーロッパで長らく動物についての物語の基本となった『フィシオロゴス』という動物寓意集に一角獣が載り、ヨーロッパ世界に浸透するようになった。

中世ヨーロッパにおける一角獣

 以下略

関連項目


参考資料 -


*1 ちなみに、中国では蚺蛇という蛇が女性と花に弱いので、捕らえるときは花のかんざしをつけた女性を使え、と言われている。『五雑組』より。
*2 資料/977:92-93.

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Last-modified: 2013-09-22 (日) 09:04:41 (2995d)