*イスバザデン・ペンカウル [#n0f90521]
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地域・文化:ウェールズ

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 イスバザデン「サンザシ(?)」、ペンカウル「巨人の長」。~
 中世ウェールズの散文物語集『マビノギオン』(Mabinogion)第7話「キルッフとオルウェン」に登場する巨人の長。

 「キルッフとオルウェン」は、次のようにして始まる。~
 キルッフはケレドン・ウレディク(Kyledon Wledic)の息子キリッズ(Kilyd)とアンラウド・ウレディク(Anlawd Wledic)の娘ゴレイディズ(Goleudyt)の1人息子で、偉大なアルスル(Arthur)王の第一の従兄弟だった。~
 ゴレイディズが病の床に伏して亡くなると、キリッズはしばらくして新しい妻を迎えた。しかしキリッズはその妻にキルッフの存在を伝えなかったため、キルッフは継母と初対面したときに「巨人の長イスバザデンの娘オルウェンをかち得るまでは、どんな女人にも触れることができない」という呪いをかけられてしまった。~
 キルッフはアルスル王の宮廷へと向かい、彼の戦士たちにオルウェンを獲得するように請願した。しかしアルスルはイスバザデンのこともオルウェンのことも知らなかった(のちにイスバザデンはアルスルも自らの配下にいる、と語っているが、これはハッタリだろう)。この王はあちこちに使者を遣わしたが、誰もこの巨人の存在をつかむことができるものはいなかった(キリッズの新妻に聞けばいいのに)。キルッフは失望し帰ろうとしたが、そこに不思議な能力を持ったカイ(Kei)、美男で最強の戦士ベドウィル、案内人キンデリック(Cyndelic Kyarwyd)、動物の言葉も通訳できるグルヒル(Gwrhyr Gwalstawd leithoed)、旅慣れたグワルッフマイ(Gwalchmeiアルスルの甥)、透明人間になれるメヌウ(Menw)が立ち上がった。~
 旅を続けたキルッフ一行は、平原の向こうに砦を発見した。しかしなかなかそこに届かなかったので、まずは羊飼いカステンヒン・アムヒンウェディク(Kastenhin Amhynwyedic)とその妻の家に泊まることにした。妻はキルッフの親類だったので喜んだが、また同時に悲しみもした。というのも、彼たちの子供は一人を除いてすべて(23人)イスバザデンに殺されてしまっていたからである。彼女たちは美しい乙女オルウェンを呼び、キルッフと初対面させた。キルッフは彼女がまさに望んでいた女性だと思ったが、オルウェンは、父親であるイスバザデンは自分が結婚してしまうまでしか生きられないと運命付けられていると告げる。しかし父親が要求する無理難題を拒否しなければ、なんとかなるかもしれないという。そしてオルウェンは去っていった。~
 キルッフたちは砦の9人の門番たち及び9頭の番犬を殺し、大広間でイスバザデンと対面した。~
 「御身の娘御オルウェンどのを、キリッズの息子キルッフにいただこうと、こちらへ参上した次第」~
 イスバザデンの瞼は非常に重かったので、彼は自分で目を開けずに家来たちに、瞼に熊手を入れて持ち上げさせた。そして彼らを一度返すと、背後から石槍を投擲した。しかしベドウィルがそれをつかみ、巨人のひざ頭に投げ返した(このとき、イスバザデンは「鉄が痛い思いをさせる」と言っている。石器時代から鉄器時代への移行を示すものだという説もあるが、説得力に乏しい)。次の日もイスバザデンは返答を延ばし、再び背後から槍を投げた。今度はメヌウがつまみ、それを胸の真ん中に命中させた。三日目も同じことになったが、このときはキルッフ自身が巨人の目玉に槍を貫き通した。~
 4日目、ようやくイスバザデンはキルッフたちの話を聞くことにした。そしてこの巨人は非常に多くの無理難題を要求する。~
 全部で40もあるというこの難題、とりあえずリストアップしてみるとこうなる。~
+低木の茂みを引き抜いて肥料にし、婚礼の日の食料と飲料をつくるための畑にしろ。
+その畑を耕すのはドーン(Dôn)の息子アマエソン(Amaethon)以外ではだめだ。
+その畑を耕す道具を作るのはドーンの息子ゴヴァンノン(gou[f]annon)以外ではだめだ、
+その畑を耕す牛をグルウリド・ウィネ(Gwlwlyd Wineu)からもらわなければならない。
+その畑を耕す2頭の雄牛メリン・グワンフィンとイッヒ・ブレッヒを手に入れなければならない。
+その畑を耕すニンヒアウとペイビアウという角のある雄牛を鋤につながなければならない。
+べつの畑で亜麻を取り、婚礼の日にオルウェンがかぶるヴェールをつくれ。
+婚礼の宴会でつくる飲み物のために非常に甘い蜂蜜を手に入れろ。
+その飲み物を入れる杯はスウィロン(Llwyryon)の息子スウィル(Llwyr)のもの以外ではだめだ。
+初夜にイスバザデンが食べるものが入っている、長脛のグウィズネ(Gwydneu)の大籠をもってこい。
+その晩、酒を注ぐのはグルガウト・ゴドディン(Gwlgawt Gododin)の角の酒器からでなければだめだ。
+その晩、イスバザデンをもてなすための、ひとりでに鳴り出すタイルトゥ(Teirtu)の竪琴をもってこい。
+その晩、イスバザデンを慰めるための、リアンノン(Riannon)の小鳥たちをもってこい。
+婚礼の食事を煮るイウェルゾン人ディウルナッハ(Diwrnach)の大釜をもってこい。
+イスバザデンのヒゲを剃るために、猪の長エスキスエルウィンの生きたときに抜いた牙を手に入れろ。
+その牙はイウェルゾンの王アエド(Aed)の息子オドガル(Odgar)以外には抜けない。
+その牙を保存できるのはプリダインのカウ(Kaw)以外ではだめだ。
+イスバザデンの毛を整えるために、地獄の高地にいる白き魔女の娘の黒き魔女の血を手に入れろ。
+その血は小人のグウィドルウィンの瓶以外にいれてはいけない。
+牛乳を入れる、剛髯のリンノン(Rinnon)の瓶を手に入れろ。
+イスバザデンの髪を手入れするために、トゥルッフ・トゥルイスの耳の間にある櫛と大バサミを持ってこい。
+その猪を狩るにはエリ(Eri)の息子グライト(Greit)の犬ドゥルトウィン以外ではだめだ。
+その犬をつなぐには百の爪もつコルス(Cors)の革紐以外ではだめだ。
+その革紐をつなぎとめる首輪は百の手をもつカンハスティル(Canhastyr)のもの以外ではだめだ。
+その首輪と革紐をつなぎとめるには百の繋ぎもつキリッズの鎖以外ではだめだ。
+その犬を操れるのは、モロドン(Modron)の息子以外マボン(Mabon)以外ではだめだ。
+その猪を狩るにはグウェドゥ(Gwedw)の駿馬グウィン・メグドゥを手に入れなければならない。
+マボンを見つけるには親戚のアエル(Aer)の息子エイドエル(Eidoel)を見つけなければならない。
+その猪を狩るにはイウェルゾンの首席狩人ガルセリト(Garserlit)を見つけなければならない。
+その2頭の猟犬をつなぐには、騎馬武者ディシス(Dillus)のひげから作ったヒゲでなければならない。
+その2頭の猟犬をつなぐのは、ヘトゥン(Hettwn)の息子キネディル(Kynedyr)以外ではだめだ。
+その猪を狩るには、ニッズ(Nud)の息子グウィン(Gwynn)を手に入れなければならない。
+グウィンに猪を狩らせるには、モロ・オイルヴェダウク(Moro Oeruedawc)の馬ディ以外ではだめだ。
+その猪を狩るには、フラインクの王グウィレンヒン(Guilenhin[=ギヨーム=ウィリアム])が来なければならない。
+その猪を狩るには、アルスルと彼の狩人たちが協力しなければならない(すでに協力してるし)。
+その猪を狩るには、ブルッフ(Bwlch)とキヴルッフ(Kyuwlch)とセヴルッフ(Seuwlch)が必要だ。
+その猪を狩るには、巨人ウルナッハの短剣が必要だ。
+その猪を狩るには、昼夜一睡もしてはならない。

**関連項目 [#o1af5405]
-[[../カウル]]

-[[キーワード/巨人]]
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参考資料 - [[資料/3]]:157-214; [[資料/198]]:


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