地域・文化:ウェールズ
ウェールズ語で「巨人」のこと。『マビノギオン』に登場する巨人アスバザデン・ベンカウルのカウルと同じ。
語源については、印欧祖語の<font style="font-family:Arial Unicode MS">*k̂ouh<small>1</small>ros
*k̂uh<small>1</small>ros</font>「力強い」にさかのぼるとする説がある。前者からの派生語は古アイルランド語のコーラド(cōraid)「英雄たち」とウェールズ語のカウル。後者からはギリシア語のキュリオス(kyrios<*kyros)「力ある」、アヴェスター語のスーラ(sūra-)「英雄」、サンスクリットのシャヴィーラ(śávīra-)「強い」、シューラ(śū́ra-)「英雄」。
健部伸明はこれとは別に、マン語でいう巨人フォウルfoawrとの類似性を指摘し、foawrがpケルト語に、カウルがqケルト語に属すのではないかとする(*1)。そして敵対する民族であったマン島とウェールズでは、相手の使用していた蔑称としての「巨人」を取り込んだのではないか、と推測する。興味深いが、実証性に欠ける。
<small> *1 ケルト系言語(アイルランド語、ウェールズ語、ゲール語など)は、大別してqケルト語とpケルト語に分類される。この分類の基準は、これらの言語がもともと一つの言語(ケルト祖語)だった時代(先史時代なので実際にどういう言語かだったかどうかはわからない)の単語におけるqwの音がqケルト語ではqwまたはqw>kになったがpケルト語ではqw>pになったという説によるものである。たとえば
また、上の例ではアイルランド語やギリシア語におけるs(カ行)がアヴェスター語やサンスクリットではś(サ、シャ行)になっている。これもまた、印欧祖語の時点ではkだったものがアヴェスター語などではsになったのであるとされている。前者(kのまま)をケントゥム語群、後者をサテム語群という。</small>