『ニーベルンゲンの歌』のドラッヘ

Drache

地域・文化:ドイツ


 中世ドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』前半の主人公は英雄ジーフリト(Sîfrit/, Sîvrit。現代語でジークフリートSiegfried)であるが、まだ若いのに名高い戦士であった。ジーフリトはハゲネに襲われるまで誰にも傷つけられることがない身体だったが、それは彼がドラゴン(ドラッヘDrache)を退治したことに由来するのである。
 ところで一般にジークフリートといえばドラゴン退治の英雄として知られているが、少なくとも『ニーベルンゲンの歌』写本B(最古の状態を保存しているとされる)ではドラゴン退治はわずかに言及されているにすぎない。それは第3歌章(詩節100)で、ハゲネがジーフリトの功績を紹介しているところである。
 「あの勇士はある時竜をも退治しました。彼はその血を全身に浴びて、そのため肌が不死身の甲羅と化したのです」(相良守峯訳)
 たったこれだけ。ジーフリトはこの後、どんな武器でもっても傷つけられない身体になった。しかし唯一、肩の骨の間だけ、菩提樹の葉が落ちてきて、そこだけ血が降りかからなかった。だから、肩の間だけは生身なのである。ジーフリトの妻クリエムヒルトは信頼するハゲネ(当然、ジーフリト暗殺を考えている)にそのことを教えてしまい(詩節899以降)、結局それがこの英雄の命を奪うことになる。
 ちなみに岩波文庫と現代教養文庫の挿絵には裸の女性?がどうやらこの竜によって監禁されており、それがジーフリトによって解放されたところが描かれている。

 『ニーベルンゲンの歌』にはほかにもいくつか写本があって、そのうち、おそらく15世紀ごろに書き写されたものだと思われる写本mは、本文が残っていない「内容目録」である。そこには、B写本には知られていない竜についての物語のあらすじが存在した。
 まず、グンテルたちがクリーミルデ(これはブルンヒルトの書き間違いらしい)のところへ行こうとしたが、「一匹の荒々しい竜」(ein wildir drache)がそれを阻んだ(第6歌章)。そして、「一匹の荒々しい竜」がクリーミルデをさらって岩山へと連れ去った(第7歌章)。そこでジーフェリートがクリーミルデを救出しようとして岩山へと向かい、苦労をした(第8歌章)。なんとかジーフェリートはドラッヘを打ち倒し、彼女をライン河畔へと帰った(第9歌章)。
 この物語は、のちの韻文『不死身のザイフリート』(1530ごろ)、ハンス・ザックスの『不死身のゾイフリート』(1557)、民衆本『不死身のジークフリート』(1657)、19世紀のグスタフ・シュヴァープ『甲羅武者ジークフリート』などの中で発展していくことになる。

関連項目


参考資料 - 資料/105:; 資料/30:


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