*鼇 [#o0c0a16c]
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地域・文化:中国

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 巨大な亀のこと。~
 『列子』「湯問」第五によると、昔、女媧が五色の石を練り、それで天の欠けたところを埋めた。そのとき鼇の脚を切って、天の4つの極に据えて支える柱とした。その後、五帝の時代に共工(の子孫)が顓頊と天子の地位を争い、怒って不周山にぶつかった。すると天の柱が折れ、地をつなぐ綱も切れてしまった。そのために天は西北に傾き、そこに日月星辰が集まっているのだ、という(([[資料/474]]: 213-14.))。~
 この天地神話の前半部分および鼇は『淮南子』「覧冥訓」にも出てきている。~
 『史記』「三皇本紀」にもまた似たような神話が載っているが、少し異なり、女媧の話と共工の話が一つに融合してしまっている。それによると、共工は祝融と戦い、敗北したので怒り狂った。そして不周山に頭をぶつけたところ、崩れてしまい、天の柱は折れ、地の綱は切れてしまった。女媧は五色の石を練って天を修復し、鼇の脚を切断して天の四つの柱となしたという(([[資料/474]]: 215.))。

 このように宇宙論的に巨大な亀である鼇は、おそらくもともと世界そのものだったように思われる(古代中国の世界観は天が円く地が四角いというもので、ちょうど亀の姿と合致する)(([[資料/476]]:72.))。

 『列子』はさらに宇宙論的な説明を続ける。~
 渤海の東の果てに、帰墟という、大きな底なしの谷がある。そのなかに5つの山があり、それぞれ名前がついている(うち一つは蓬莱山)。その山はそれぞれ周囲が三万里、山頂の平地は九千里もある。山々はお互いに七万里ずつ離れているが、隣り合っているものとされる。そこは神仙の土地にして、不老不死の境地である。~
 しかし五山の根は渤海に浮かんでいて、どこかにつながっているわけではなかった。波に任せてゆらゆらと、安定することなくいつも動いてばかりいた。仙人たちにとってこれは好ましからざることだったので、天帝にこのことを訴えた。帝はこのまま五山が世界の果てに流れていってしまい仙人たちの住むところがなくなることを恐れ、禺疆という神に命じて、大きな鼇を15頭用意させ、頭を挙げて山を載せるようにした。そして入れ代わり三交代制となし、六万年で一巡りするようにした。こうしてようやく五山は安定して不動のものとなった。~
 しかし、竜伯という国にいた巨人が数歩もいかないうちに五山のところに達して、6頭の鼇をすぐに釣り上げてしまった。巨人は鼇を自分の国につれて帰り、骨を焼いて占いをしていた。このため五山のうち二つが北極に流れ、海の中に沈んでしまった。そこに住んでいた何億という仙人たちもまた難民になってしまった。帝はこれに怒り、竜伯の国を狭くし、そして人々をそこない背を低くした。それでも神農のコロ、まだ彼らの身長は数十丈もあった、という(([[資料/474]]: 215-18.))。

 鼇は『楚辞』「天問」第五段にもみえる。短いので全文引用してみよう。
 鼇戴山抃 何以安之
 釈舟陵行 何以遷之
 
 鼇は山を背負いながら手を打って舞う(抃)のに、どうしてそれを安定させるのだろうか。
 舟をすてて陸を行き、どのようにこれをうつすことができるのだろうか。
 この「山」は注釈をつけている王逸によれば蓬莱山のことである。山を支えている鼇が踊っていては支えることは難しいのではないか、というわけである。なお、『楚辞』の「天問」は文字通り「天に問う」詩なので、疑問は提示されても答えは残されていない。また疑問をつきつける上での前提としての知識も大幅に省略されてしまっているので、このように推測するしかない。~
 二行目はいくつか解釈があるが、蓬莱山が海上から陸地へと移された神話が存在したのではないか、という説がある。『列子』において鼇を釣った巨人の話がそれと関連しているのではないか、という推論である(([[資料/475]]: 135-39.))。

 鼇は後世、蓬莱山を背負う亀として図案化され、日本にも伝来した。下の画像は東京国立博物館所蔵の蓬莱蒔絵袈裟箱(重文)の蓋裏で、平安時代のもの。ここではカットしたが蓬莱の上空には何羽かの鶴が飛び交っている(([[資料/477]]: 10, 167.))。~
http://www.toroia.info/images/gougyo.gif ~
『日本の意匠 第13巻 吉祥』(京都書院, 1986)、10ページより。
**関連項目 [#d81cba56]
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-[[キーワード/亀]] [[キーワード/宇宙的]]
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参考資料 - [[資料/474]]:213-18; [[資料/475]]:135-39; [[資料/476]]:72, 101-3, [[資料/310]]; [[資料/477]]:10, 167

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