ムシュマッフ

Mušmaḫḫu

地域・文化:アッカド


 ムシュマッヘー。
 「特別な蛇」。
 ムシュマッフという語自体はシュメール語ムシュマフからの借用語。
 ムシュは「蛇」という意味なのでムシュマッフは蛇の一種だが、「我が武器はムシュマッフのように七つの頭がある」というセリフがあるように(叙事詩『アンギム』III, 38)、ムシュマッフも七つの頭がある怪物蛇だったと考えられている(これはムシュマフも同様)。

 創世叙事詩『エヌマ・エリシュ』ではティアマトの11の怪物の1つとされ、「鋭い歯、容赦ない機牙、血液の代わりに毒が流れている」というような恐ろしい形相で歌われた。

 残されている文書からするとムシュマッフの彫像が造られていたという事実はあるようなのだが(「鱗はパッパルディル石、鼻はサームトゥ石、目はムッシャル、顔はラピスラズリと金」という説明書きが知られている)、紀元前2000年以降、作例はひとつも発掘されていない*1。また、『エヌマ・エリシュ』に現れる11の怪物のうちラハムやムシュフシュ、ギルタブルルやクルル、クサリクなどは神殿の守護獣として彫られているのだがムシュマッフだけは仲間外れである。
 以上のようなことから考えて、メソポタミアの蛇やドラゴンは基本的に善性の存在だったが、ムシュマッフのみは特別に悪の存在だったらしい。E・ダグラス・ファン・ブーレンは、ムシュマッフは「ドラゴンのなかの堕天使なのである。(中略)すべてを体現するはずの頭の多様性が、悪い方向へと偏向された。豊穣を与える雨や流れのかわりに、ムシュマフは川を氾濫させ洪水を起こし、乱雲と嵐を引き起こし、“死をもたらす”と言われるようになったのである」と述べている*2

関連項目


参考資料 - 資料/351:; 資料/CAD:M2.277-78; 資料/580:41


*1 資料/554:512. ギリシアでヒュドラの図像が描かれるまで1500年の空白がある。
*2 資料/553:20.

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Last-modified: 2010-06-28 (月) 05:22:09