竜とドラゴン

エジプトの冥界と、そのなかの蛇

エジプトの冥界観

メヘン(Mehen)

 どうもウロボロスの図像的な原型は、このメヘンというエジプトの蛇の神らしい。
 蛇のすがたをしているメヘンの役割は、太陽神ラーが夜に冥界を運行するときに、彼を取り囲んで守る存在らしい。具体的な姿はたとえば『門の書』にあるこれ(外部サイト)(王の谷、ラムセス1世王墓。第19王朝時代)。中央の、頭に赤い丸を載せているのが太陽神。ラーといえば普通はハヤブサの頭をしているが、夜には牡羊、または牡羊頭の男性の姿をとる*1。両脇にいるのがシア神とヘカ神。鼻提灯を出している蛇は……なんなんだろう? そしてこの神の入っている建物を取り囲んでうねうねしている細長いものが、メヘンという蛇である。頭は左下のほうにある。この絵画では頭で自分の尾をくわえているわけではないが、トゥートアンクアメンの神殿(第18王朝)には、死せる王の胸像を左回りに取り囲み、そしてその口の中に自らの尾を入れているメヘンが描かれている。この図像にはまた「時を隠すもの」とかいうよくわからない文章がつけられている。無限とでも言う意味か。ただし、古代エジプトの資料から直接ウロボロスのような象徴が読み取れるわけではない。メヘンは、ラーが夜の旅に出ているあいだ、その船を座礁させようとするアポピスからラーを守るのが役目である。
 もっとも古いのは中王国時代の石棺文(CT493, 495)に見えるもので、そこには「メヘンの秘儀」が言及されている。同じ文書にはメヘンが罪人(とっくにラーの敵)の監視者であるというようなことも書かれている。また、同石棺文(CT758~60)には、この蛇は九つの同心円「火の道」によって太陽神をとりまき、守護するとある。

アポピス

work in progress....

グノーシス主義への影響

 コプト語で書かれたグノーシス主義の文書『ピスティス・ソフィア』では、「外の闇」がどのようなものか、マリアがイエスにその教えをこうているところがある。
 それによれば、外の闇は巨大な蛇である。この蛇は、みずからの尾をみずからの口に入れ、全世界を取り囲んでいる(ミズガルズオルムウロボロス)。そのなかには多くの刑罰の場があるが、(そのうちで?)極めて重い刑罰が与えられる広間が12知られている。それぞれの広間の支配者は独特の風貌をしており、エジプトの多くの神々のように動物の顔をしている。
 また、第10の広間の支配者多くいて、中でももっとも強力なのが、7つの頭の蛇の姿をしているクサルマロークである。第11の広間の支配者も多くいるが、同じくもっとも力があるのはローカルというもので、猫の顔が7つある姿をしている。そして第12の広間のもっとも偉大な支配者は犬の顔が7つある姿をしているクレーマオールである。
 12の支配者は外なる闇の大いなる蛇のなかにおり、それぞれときに応じた名称をもち、時によってそれぞれの顔を変化させる。

 7つの頭の蛇はシュメールなどオリエントで広く伝えられている怪物的存在だが、エジプトにもいるらしい。「神々の雄牛」と呼ばれるナーウ(Nāu)がそれで、「7つの首に7つの蛇がいる」と言われている。「7頭の蛇」ナーウ・シェスマ(Nāu-shesma)もまた頭に7つのウラエウスを頂き、7人の射手に権限があるとされる(テティ王のピラミッド・テキスト)。


*1 ステファヌ・ロッシーニ、リュト・シュマン=アンテルム『図説 エジプトの神々事典』p.148

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2007-10-13 (土) 15:02:57 (3569d)