竜とドラゴン

オルペウス教

オルペウスによる宇宙創成論

 ダマスキオスが「オルペウスの神論」として引用している神話によれば、蛇(ドラコン)は原初の存在だったという。

 初めに水と素材(ヒュレーhylē。「泥」īlysの誤記だとする説もある)があった。この素材が凝固して、大地が形成された。この2つ(ここでは水と土になっている)から第3の始源であるドラコンが誕生した。ドラコンにはしっかりと生えた牡牛と獅子の頭があり、その中間には神の顔があった。その両肩には翼があり、「老いを知らぬ時」「ヘラクレス」と呼ばれていた。これと結びついているのがアナンケ「必然」であった。このアナンケは非物体的で両性具有であり、宇宙の両端に腕を伸ばしている。
 「時」つまりドラコンは、アイテール「上層天」とカオス、エレボス「幽冥」の三者を生み出した。そして次に「時」は「卵」を生んだ。この2セットの次に、ドラコンはさらに「非物体的な神」が生み出した。この神は両肩に金の翼があり、脇腹にしっかりとした牡牛の頭がいくつかあり、頭部には、あらゆる動物に似た蛇がいた。これはプロトゴノス「最初に生まれた者」であり、ゼウス、パーン(全宇宙)とも呼ばれている。
(ダマスキオス『第一の原理について』123 bis*1)

 レナル・ソレルによればダマスキオスによるこの神話は、彼自身の新プラトン的解釈と微妙に重なり合っており、難解であるという*2。 またアテナゴラスも似たような神話を伝えている。

 オルペウスはホメロスにも影響を与えた人、当時は神話を詳述してもっとも信頼されていた。その彼によれば、「水」があらゆるものの始源である。水から「泥」が形成された。そしてこの2つからドラコンが生まれた。このドラコンというのはしっかりと生えた獅子と牡牛の頭があり、その中央に神の顔があった。名前はヘラクレス、またはクロノス(時)であった。
 ヘラクレスは大きな卵(ヒュペルメゲテス・オーオンhypermegethes ō[i]on)を産んだ。卵は摩擦によって分割され、一番高いほうがウラノス(天空)となり、下のほうはゲー(大地)となった。そこから「双胴の神」(ディソーマトスdisōmatos)も出てきた。ウラノスとゲーとの間にクロト、ラケシス、アトロポスという娘たちが誕生し、さらにヘカトンケイル(コットス、ギュゲス、ブリアレオス)とキュクロプス(プロンテス、ステロペス、アルゲス)という息子たちも生まれた。しかしウラノスは息子たちが自分を権力の座から追い落とすことになることを知ると、これらの息子たちを縛り上げ、タルタロスへと落とした。これに怒り、ゲーはティタン族を生んだ[このあと、よく知られているウラノス→クロノス→ゼウスの主権委譲神話が続く]。(アテナゴラス『キリスト教徒のための嘆願』18*3)。

オピオン

 またロドスのアポロニオスもオルペウスがアルゴー船上で歌ったものとして一種の創造神話を披瀝している。ただしこれはオルペウスの名前だけが使われているのであって、内容的にはオルペウス教の宇宙創成論とは何の関係もない寄せ集めであり*4、単なる文体練習のようなものだ*5と考えられている。このなかには「蛇」(オピスοφις)の名前を冠するオピオンという神(?巨人?)の物語が語られている。オピオン(またはオピオネウス)は蛇の化身らしい。

 原初のとき、大地と天と海は一つの形で混ざり合っていた。しかしそれは「恐ろしい争い」によって分離された。それから星々、月と太陽が、山々が、河川が、生き物が誕生していった。この太古の世界において、最初にオリュンポス山を支配したのはオピオンとオケアノスの娘であるエウリュノメだった。しかし後にオピオンはクロノスに、エウリュノメはレイアに支配権を明け渡した。後にゼウスたちがこれらから支配権を奪うことになる。(『アルゴナウティカ』第1歌495~510行*6)

 同じような名前のオピオネウスという神の物語は、シュロスのペレキュデス(前6世紀ごろ)によっても語られている(『神性論』)。ただしペレキュデスの著作は現存せず、オリゲネスの『ケルソス論駁』などに引用されている神話からそのおおまかな内容がわかっているに過ぎない。これがオルペウス教と関係するかどうかはわからないが、実際のところはあまり関係ないようである。

 原初のとき存在していたのはザス(Ζας/Zas=ゼウス。火や天を意味する)、クロノス(Χρονος、またはΚρονος。どちらも「時」の神)、クトニア(Χθονια「大地」)であり、これは常にある3つの最初の原理だった(ダマスキオス『第一の原理について』124b、プロブス『ウェルギリウス「牧歌」注解』6.31、ヘルメイアス『異教哲学者を諷す』12など*7)。またゼン(Ζην/Zēn=ゼウス)とクトニエ(=クトニア)とエロスがあり、さらにオピオネウスが誕生したと言っていた、とする人もいる(テュロスのマクシモス『哲学談義』VI.4.*8)。
 二軍が対峙した。片方を統率するのはクロノスであり、もう片方を統率するのはオピオネウスであった。彼らは、どちらがオゲノス(=オケアノス)に倒れ落ちようとも、落ちたほうが敗者であり、押し出したほうが勝者にして天を占有することができる、という取り決めをおこなった(オリゲネス『ケルソス論駁』VI 42)。結末は書かれていないが、おそらくオピオネウスたちは敗れて大洋に落ち、天井の支配権をクロノスたちに譲ったのだろう。

 また、シュロスのペレキュデスはフェニキア人に刺激され、オピオネウスやその子どもたち(オピオニダイ)の物語を作ったらしい(エウセビオス『福音の準備』I.10.50によるビュブロスのフィロンの引用)。後世、ルネサンス期フランスの大学者ジャン・ボダンは、『魔女論』(De la démonomanie des sorciers, 1580)第一の書第一章において

デーモンおよびその頭目であるドラゴン(竜)が墜落したことも報告されている。……[ペレキュデスも]同じ意見であり、ドラゴンを「オフィオノエウム」すなわち反逆の天使の頭領と呼んでいる。

と述べている*9。オフィオノエウムはOphionoeumで、Ohpioneusの属格形が訛ったものであろう。言うまでもなくボダンはここで古代神話をキリスト教的に解釈しており、ペレキュデスがオピオネウスを堕天使とみなしていたわけではない。


高津春繁によれば、プリュギアにシュバリス(Sýbaris)という人がいた。その娘であるアリア(Aliā)はアルテミスの聖森で怪物(詳細不明)と交わってオピオゲネス族(Ophiogenēs)「蛇から生まれた者」を生んだという。彼らはヘレスポントス近くのパリオン市近くに住んでいたらしい。また、オピオゲネスの祖先は人間になった蛇であるとも言われる。彼らは蛇にかまれた傷を呪術で癒した。

無関係だとは思うが、一応名前が似ているので紹介*10


*1 三浦要(訳)『ソクラテス以前哲学者断片集 第Ⅰ分冊』p. 24。
*2 レナル・ソレル『オルフェウス教』p. 42。
*3 三浦要、pp. 25-26。
*4 ソレル、p. 58
*5 ソレル、p. 59
*6 岡道男(訳)『アルゴナウティカ アルゴ船物語』pp. 36-37。
*7 国方栄二(訳)『ソクラテス以前哲学者断片集 第Ⅰ分冊』pp. 91-92。
*8 国方、p. 92。
*9 平野隆文(訳)、「魔女論(魔女の悪魔狂について)」『フランス・ルネサンス文学集1 学問と信仰と』、p. 207。
*10 『ギリシア・ローマ神話辞典』p. 134

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Last-modified: 2016-03-11 (金) 20:20:10 (411d)