オルペウス教 †オルペウスによる宇宙創成論 †ダマスキオスが「オルペウスの神論」として引用している神話によれば、蛇(ドラコン)は原初の存在だったという。 初めに水と素材(ヒュレーhylē。「泥」īlysの誤記だとする説もある)があった。この素材が凝固して、大地が形成された。この2つ(ここでは水と土になっている)から第3の始源であるドラコンが誕生した。ドラコンにはしっかりと生えた牡牛と獅子の頭があり、その中間には神の顔があった。その両肩には翼があり、「老いを知らぬ時」「ヘラクレス」と呼ばれていた。これと結びついているのがアナンケ「必然」であった。このアナンケは非物体的で両性具有であり、宇宙の両端に腕を伸ばしている。 レナル・ソレルによればダマスキオスによるこの神話は、彼自身の新プラトン的解釈と微妙に重なり合っており、難解であるという*2。 またアテナゴラスも似たような神話を伝えている。 オルペウスはホメロスにも影響を与えた人、当時は神話を詳述してもっとも信頼されていた。その彼によれば、「水」があらゆるものの始源である。水から「泥」が形成された。そしてこの2つからドラコンが生まれた。このドラコンというのはしっかりと生えた獅子と牡牛の頭があり、その中央に神の顔があった。名前はヘラクレス、またはクロノス(時)であった。 オピオン †またロドスのアポロニオスもオルペウスがアルゴー船上で歌ったものとして一種の創造神話を披瀝している。ただしこれはオルペウスの名前だけが使われているのであって、内容的にはオルペウス教の宇宙創成論とは何の関係もない寄せ集めであり*4、単なる文体練習のようなものだ*5と考えられている。このなかには「蛇」(オピスοφις)の名前を冠するオピオンという神(?巨人?)の物語が語られている。オピオン(またはオピオネウス)は蛇の化身らしい。 原初のとき、大地と天と海は一つの形で混ざり合っていた。しかしそれは「恐ろしい争い」によって分離された。それから星々、月と太陽が、山々が、河川が、生き物が誕生していった。この太古の世界において、最初にオリュンポス山を支配したのはオピオンとオケアノスの娘であるエウリュノメだった。しかし後にオピオンはクロノスに、エウリュノメはレイアに支配権を明け渡した。後にゼウスたちがこれらから支配権を奪うことになる。(『アルゴナウティカ』第1歌495~510行*6) 同じような名前のオピオネウスという神の物語は、シュロスのペレキュデス(前6世紀ごろ)によっても語られている(『神性論』)。ただしペレキュデスの著作は現存せず、オリゲネスの『ケルソス論駁』などに引用されている神話からそのおおまかな内容がわかっているに過ぎない。これがオルペウス教と関係するかどうかはわからないが、実際のところはあまり関係ないようである。 原初のとき存在していたのはザス(Ζας/Zas=ゼウス。火や天を意味する)、クロノス(Χρονος、またはΚρονος。どちらも「時」の神)、クトニア(Χθονια「大地」)であり、これは常にある3つの最初の原理だった(ダマスキオス『第一の原理について』124b、プロブス『ウェルギリウス「牧歌」注解』6.31、ヘルメイアス『異教哲学者を諷す』12など*7)。またゼン(Ζην/Zēn=ゼウス)とクトニエ(=クトニア)とエロスがあり、さらにオピオネウスが誕生したと言っていた、とする人もいる(テュロスのマクシモス『哲学談義』VI.4.*8)。 また、シュロスのペレキュデスはフェニキア人に刺激され、オピオネウスやその子どもたち(オピオニダイ)の物語を作ったらしい(エウセビオス『福音の準備』I.10.50によるビュブロスのフィロンの引用)。後世、ルネサンス期フランスの大学者ジャン・ボダンは、『魔女論』(De la démonomanie des sorciers, 1580)第一の書第一章において
と述べている*9。オフィオノエウムはOphionoeumで、Ohpioneusの属格形が訛ったものであろう。言うまでもなくボダンはここで古代神話をキリスト教的に解釈しており、ペレキュデスがオピオネウスを堕天使とみなしていたわけではない。 高津春繁によれば、プリュギアにシュバリス(Sýbaris)という人がいた。その娘であるアリア(Aliā)はアルテミスの聖森で怪物(詳細不明)と交わってオピオゲネス族(Ophiogenēs)「蛇から生まれた者」を生んだという。彼らはヘレスポントス近くのパリオン市近くに住んでいたらしい。また、オピオゲネスの祖先は人間になった蛇であるとも言われる。彼らは蛇にかまれた傷を呪術で癒した。 無関係だとは思うが、一応名前が似ているので紹介*10。 |