竜とドラゴン

シベリアの竜、蛇

 エヴェンキでは、次のような潜水型創造神話が知られている。原初、陸地は非常に少なかったのでマンモスが海底へいき、牙に土塊をひっかけて大地に放り投げた。でもデコボコしてしまったので、蛇のジャブダル「長さ、長い」に助けを求めた。ジャブダルは這って大地をならした。ジャブダルの這ったところが今の川、マンモスが寝たところは今の湖、その他の山はもともとの土塊である。また、別の神話では、悪魔と戦ったときにこの2者から現在の地形が形成されたといい、その後マンモスとジャブダルは地下世界へと去った。ジャブダルはトナカイの角と脚を持つ。また、虹のことをジャブダルということもある。cf.虹蛇

 北アジアのチュルク語族系神話では、夜な夜な現れ、天を飛び回る炎の蛇ヴェリセレンや出産を守護する天の蛇セレンが知られている。沿海州のウデゲ人の間では雷はアグドィと呼ばれ、足と翼のある蛇の姿で想像される。アグドィは炎を吐き、悪霊を追い回す。ウデゲのシャーマンの太鼓ケースに書かれたアグドィは、中国の竜に近い。脚は4つ、角らしきものが生えている。
 南トゥヴァ人によれば、天にはルー(たぶん中国語の竜が起源)がおり、これが動くいて「エルチネ」に触ると稲妻が生まれる。「エルチネ」が地面に落とされると、大雨、洪水になる。
 モンゴル諸族でも、ルーは雷神であり、水の支配者でもある。
 アムール川のナーナイ人に伝わるムドゥレは「降水をつかさどる蛇」である。

 カルムィク人によれば、大洋の中の木ザンブ(=生命の木)の近くに竜がいて、葉っぱが落ちたら飲み込もうと待ち構えている。モンゴル人によれば、ザンブは世界樹で、根はスメル山のふもとに食い込み、梢は頂を覆っている。神々は木の実を食べ、悪魔たちは、山の谷間でそれをうらやましそうに見ているという。
 ブリヤート人の間では、「乳の湖」に生えている木にはアビルガというヘビがいる。または、幹に絡み付いている。cf.エデンの園の蛇

アルタイ祖語?

巳=ムドゥリ=ミリ

 日本語で十二支の巳は「み」と読む。これは蛇の古語「へみ」の略語であるとする説がある。  ところでアルタイ語族というものがあるとする学派によれば、「み」はアルタイ祖語の*mi̯úduにさかのぼるという。以下は、アルタイ語族仮説を単に紹介するだけであってtoroiaが支持するとか支持しないとかいう問題は度外視しているということを強調しておく(これはトルコ諸族の竜も同様)。

 トゥングース・満州諸語では、文語満州語でムドゥリ(muduri)、口語満州語も同じくムドゥリ(muduri)。ジュルチェン語ムドゥウル(mudu-ur)。ウルチ語ムドゥリ(muduli)。ナーナイ語ムドゥリ(muduri)。オロチ語ムドゥリ(muduri)。ウデゲ語ムディレ(mudile)。ソロン語ムドゥル(mudur)。
 推定されるトゥングース・満州祖語は*muduri。

 中世朝鮮語ミリ(mìrí̶)。推定される朝鮮祖語は同じく*mìrí̶。

 日本語では、古代、中世はミ(mi)。東京方言でミ(mì)。推定される日本祖語は*múi(~*Mə́i)。

 以上三つの祖語から推定されるアルタイ祖語は*mi̯údu。

ムカデ

 また同様に、日本語のムカデが元来蛇だったというアルタイ祖語説もある。竜とムカデは俵藤太を引くまでもなく対立する事が多いので、もし本当だとすれば面白い。蛇が実はタブー的なことばで、そのため形態は似ているが対立しているムカデに当てられた、と考えることもできる。

 トゥングース・満州諸語ではネギダール語ミーヒ(mīxi)。文語満州語メイヘ(meixe)。口語満州語メイフ(meixə)。ジュルチェン語ムイヘ(muj-xe)。ウルチ語ムイ(mui)。オロッコ語ムイ(mui)、ムイギ(mujγi)。ナーナイ語ムイキ(mujki)。オロチ語ミーキ(mīki)。ウデゲ語ミキ(miki)。意味は「蛇」。どちらかというと日本語の巳(み)はムドゥリではなくこっち系な気もするが。
 推定されるトゥングース・満州祖語は*mǖkǖ。

モンゴル諸語では中期モンゴル語モハイ(moxai)、モカイ(moqai)、ムガ(məγa)、ムガイ(muγaj)。文語モンゴル語ではモガイ(moγai)。ハンティ語ではモゴイ(mogoj)。ブリヤート語ではモゴイ(mogoj)。カルムック語ではモガー(moγǟ、moγā)。オルドスではモゴー(moGȫ)。モゴール語ではマゴーイー(maγōī)。ザバイカルではマーガーイ(māγāj)。ダグール語ではモギ(moGi)、モグイ(moγəi)。バオア語ではモグイ(moGui)。シラ・ユグル語ではモグイ(moγui)、モゴイ(moGoi)。
 推定されるモンゴル祖語は*mogai。意味は全て「蛇」。

 テュルク諸語ではカラハン語でボケ(böke)。七頭の蛇のこと。「英雄、戦士」も意味する。

 朝鮮語ではムクリ(mək-kuri、mək-kurəŋi)。「黒大蛇」。推定される朝鮮祖語は*mək-。

 日本語ではムカデ(múkádè)。推定される日本祖語は*múkátai(~-tia)。

 以上、5つの祖語から推定されるアルタイ祖語はmi̯ūko「蛇」。

 それではヘビは何なのかというと、それはパイム(に近い音)であったという。 日本語のハ行音は、現代こそh(ヒは[çi]、フは[ɸɯ]だが)で発音されるが、中世はf、そして古代はpと発音されていた。またヘビはヘミと書かれたから、発音通りだと中世はフェミ(fèmí)、古代はペミ(pemji)になる。

 トゥングース・満州諸語では、ネギダール語でヒム(ximu)。ウルチ語でプイム(ル)(pujmu(l))。オロッコ語でポモイ(pomoị)。ナーナイ語でプイムル(pujmur)。オロチ語でヒム(ximu)、シーム(sīmu)。意味は「竜」「蛇の怪物」。
 推定される祖語は*püjmur。

 モンゴル諸語では、文語モンゴル語でヤム(jamu)、ヤマ(jama)。ハンティ語でヤム(jam)。カルムック語でヤム(jam)。オルドスでヤム(jamu)。シラ・ユグル語でヤム(jam)。意味は「病虫」「鼻疽」。 推定される祖語は*jamu。

 テュルク諸語では、チュヴァシ語でゥマン?(ъʷman)だけ。推定される祖語は*uman「虫」。

 中期朝鮮語ではパヤム(pá̆jàm)、現代語でパム(pǟm)。意味は「蛇」。推定される祖語は中期形と同じ。

 そして日本祖語は*pàim(p)V「蛇」となる。

 これら5つの祖語から推定されるアルタイ祖語は、p˓[ò]jamV「蛇」。

ヤトノカミ
 ついでに夜刀の神(jatwo-no-kami)についての語源説もみつけたので紹介してみる。

 トゥングース・満州諸語では、エヴェンキ語ジャブダル(ǯabdar)、エヴェン語ジャブドィ(ǯabdъ̣)、ネギダール語ジャブダン(ǯabdan)、ジャブダル(ǯabdar)、満州語ジャブジャン(ǯabǯan)、口語満州語ジャヴジ(ǯavəǯi)「python」、ウルチ語ジャブダ(ン)(ǯabda(n))、オロッコ語ダブダ(dabda)、ナーナイ語ジャブジャ(ǯanǯã)、オロチ語ジャブダ(ǯabda)、ソロン語ジャグダ(ǯagdã)。意味はいずれも「大蛇」。
 推測される祖語は*ǯabdar。

 日本語では、ヤトォ・ノ・カミ(jatwo-no-kami)。日本祖語は*datua「蛇」。

 *ǯabdarと*datuaから推測されるアルタイ祖語は*ǯabda「蛇」。
 トルクメン語にユヴダルハー(juvdarxā)「竜王」とあるのはイラン系のコンタミかもしれないとのこと。

 「ありえねー」とか思ってる人。toroiaもそのうちの一人です。でも、あまり知られてない言語の単語を並べるだけでも面白いから紹介してみる。


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2007-10-24 (水) 05:13:34 (4644d)