竜とドラゴン

ニーズヘグ

work in progress

ユグドラシルに住み着いている蛇たち

 ニーズヘグのほかにも世界樹ユグドラシルの生命力を弱らせているヘビたちは、なぜか複数存在する(『グリームニルの歌』)。

 これらの蛇の語源を当たっていくと、いずれも「大地」や「洞窟」などに関連のある言葉にあたることがわかってくる。以下、谷口幸男が注釈で解説している語義をヤン・デ・フリースの語源辞典で補足しながら内容を剽窃することにする。

 グラフヴィトニル(Graftvitnir)は「洞窟を訪れるもの」または「溝のオオカミ」。グラフの語根であるグラヴァ(grafa)には「掘る」という意味があるので洞窟と関連付けられているのだろう*1。ドラゴンは洞窟や地下に住むことが多いが、それは蛇も同様だった。イメージ的に蛇に洞窟と関係のある名前がつけられるのは、ゲルマン人にとっては当然のことだった。
 ヴィトニルのほうはこの蛇以外にもいくつかの神話の登場人物の名前に見られる言葉である。意味は「オオカミ」「剣」らしいが*2、いまいちピンとこない。谷口訳はおそらくヴィトヤvitja「訪れる」と関連付けている。ただしヴィトニルと関連するといわれるヴィタ(vita)の語義には「はっきり見る」「観察する」という意味があり、だとすればこれはギリシア語のドラコーンに想定される語源と意味としては同じことになる(でも、これでは蛇以外の名前につけられる理由がわからないので却下w)。

 グラフヴィトニルの子供である蛇ゴーイン(Góinn)は「荒野に棲むもの」。ただし語源はいまいちよくわかっておらず、唯一「蛇の一種」であるという点から、たとえばゴーム(gómr)「あご」だとか「あくびするもの」(ドイツ語でゲーナーgähner)だとか、あまり支持されていないが古高ドイツ語のガーヒ(gāhi)「突然に」「速く」と関連付けるものもある。グラフヴィトニルと同様、蛇が根本的には大地を這う動物であるということからギリシア語のクトーン(χθων, khthōn)「大地」と関連するという見方もあった。またスカルド詩の慣例として「剣」という意味にもなる*3

 同じくグラフヴィトニルの子供である蛇モーイン(Móinn)も「荒野に棲むもの」。語源はモール(mór)「砂地」「開けた森の土地」と関連があるとのこと。また、同名の馬の存在しているという*4。語源から正確に進化したというよりはゴーイン、モーインの発音の類似を優先したような感じがする。

 グラーバクは「灰色の背」。そういわれてみればなんとなく英語の「グレー・バック(gray back)」に似ている。なんかヘビの名前にしては微妙に地味だ。これではむしろゴリラだ。

 グラフヴェルズ(Grafvǫlluðr)もよくわからないがグラフのほうはグラフヴィトニルと同じく「掘る」が語根になっていて、正確にはGrafvǫluðr「穴を支配するもの」かもしれない、という。また「平地の下を掘り進むもの」ではないか、とも考えられている*5

 オヴニルは「輪をつくるもの」。このままだとウロボロスである。オーヴニルÓfnir)はオージンの名前のうちの一つであるが、これはおおよそ「結びつけるもの」という意味。

 スヴァーヴニル(Sváfnir)は「眠らせるもの」。「眠らせるもの」だと少しおとなしいが、語根スヴェヴァ(svæfa)には「眠り込む」のほかに「殺す」という意味もある。オージンの名前のうちの一つでもあり(『グリームニルの歌』54、スルル、ソルビョルン・ホルンクロヴィによるスカルド詩『フラフニルの歌』Hrafnismál, c. 900*6)、呪術的な能力を行使するこの神との結びつきがうかがわれる*7


*1 Jan de Vries, 1962, "Altnordisches Etymologisches Wörterbuch", S. 184; Rudolf Simek, "Dictionary of Northern Mythology", p. 116.
*2 de Vries, S. 670.
*3 de Vries, S. 182; Simek, p. 115.
*4 de Vries, S. 392.
*5 de Vries, S. 184; Simek, p. 116.
*6 Simek, p. 305.
*7 de Vries, S. 563, 571.

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Last-modified: 2007-10-13 (土) 09:44:59 (4931d)