竜とドラゴン

ペルセウス・アンドロメダ型神話

  1. 定期的に女性をいけにえに要求する蛇の怪物が現れる。
  2. 英雄が怪物を退治し、そのときいけにえにされていた女性を助ける。

 という物語。ペルセウスが海の怪物に襲われそうになっていた王女アンドロメダを助けた神話が有名なことからこのような類型の名称になっている。日本のヤマタノオロチもこの説話類型に入る。
 同じ類型に入るからといって、それが必ずしもすぐに「同じ起源を持つ」という仮定に結びつくわけではない。また、ペルセウスの神話がこの類型の代表的な神話であるわけでもない。

民間説話の構造

 民間説話研究では、このかたちの物語は「竜退治」(Dragon slayer、MT300)と「二人兄弟」(Two brothers, MT303)に分類されるようである*1。「二人兄弟」のほうは「竜退治」説話をそのなかに内包しているので、二つを同時に研究することが多い。クルト・ランケは「二人兄弟」を770話、「竜退治」を368話も集めて研究を発表したが、その後さらに100話以上が報告され、すでに1100以上の説話が知られている*2
 ランケが再構成したところによると、すべての要素を備えた物語は次のようになる。

 貧しい夫婦が死んで兄妹と家と三匹の羊が残った。兄は羊を、妹は家をもらった。兄は羊を三匹の不思議な犬と取替え、旅に出る。途中で謎の老人または老婆を助け、魔法の剣または杖をもらう。旅を続けていると、ある城下にいきつく。町中黒い布を下げている。なぜなら、近くの山に住む七頭の竜へのいけにえを決めるクジに王女が当たったからだという。王はもし姫を助けるなら国の半分を姫を与えると布告する。若者は竜を退治しに行くと、王の御者と王女がやってきた。若者は王女に竜を退治すると約束し、魔法の剣で竜の頭を切り落とす。三匹の犬も竜を攻撃する。かくして竜を殺した後、若者は竜の頭から舌を抜き取る。 すぐには城に行かず、旅を続ける。王の御者は竜の頭を持って帰り、自分が殺したのだと嘘をつく。王はそれを信じて御者に国の半分を与え、王女と結婚させようとする。王女は本当の事を知っているので、若者と約束した再開の期日まで結婚式を延期してもらう。期日になり若者が城下町に来ると、こんどは町中が赤く飾られている。宿屋の女亭主が今日婚礼があることを告げ、祝宴のご馳走を食べたいものだという。 若者は犬の首にかごを下げてカードに願いを書いて王宮に送り出す。犬を見た王女はそれとわかり、願いどおりにして若者を王宮へ招き入れる。若者は竜の舌を出す。それは竜の頭とぴったり合致する。そこで本当に竜を退治したのはこの若者だということがわかる。そのためすぐに王女と若者の婚礼が執り行われ、御者は処罰される。

 以上。「二人兄弟」はこの話に前後を付け加えたもので、前後は次のようになる。

 漁師が二度魚を助け、三度目に釣り上げた魚の言うとおりに一部を妻に食べさせ、一部を馬に、一部を犬に、そして残りを庭の木の下に埋める。妻と雌馬と犬は同時に双子を産み、庭からも2本の剣と木が生じる。成長した双子のうちの兄一人が旅に出る。兄に何かあれば木が枯れることになっている。兄は剣と馬と犬を持って旅立つ。
 竜退治があって……
 婚礼の夜、兄は山に火が燃えているのを見て妃に問う。そこに行ったものは帰ったことがない。そこで兄は剣、犬、馬とともに行ってみる。魔女の家があったので入ると、魔女は犬を怖がる。自分の髪の毛を一本かけてくれと頼む。兄はその通りにすると髪の毛が鎖に変わって犬を縛る。兄も杖で打たれて石になる。そのころ木が枯れる。弟は兄を助けに行くため、馬に乗って犬を連れ剣を持って出発する。同じ宿に着くので亭主が間違える。 また城に入っても妃に間違われる。都合がいいのでそのままにするが、寝るときは二人の間に抜き身の剣を置く。外に山の炎が見えるので問うと、妃は不思議がりながらも同じことを繰り返す。そこで弟は兄を助けに山に行く。魔女の家に着いたが兄のようには言うことを聞かず、犬をけしかける。魔女は恐れて杖を差し出す。それで石を打つと兄が蘇る。二人は魔女を殺して城に帰る。

 『民間説話 上』にある表には上記二つの説話類型がどの地域にどれだけ分布しているかが示されている。非常に多い。ヨーロッパにはほぼすべて分布しているようである。デンマークには「竜退治」が129、フィンランドには「二人兄弟」が141もある。印欧語族系以外にもエストニア、リヴォニア、フィンランド、サーミ、ヴォルガ、ウドムルト(ヴォチャーク)、ハンガリー、オスマン、チュヴァシ、バスク、ユダヤにあり、欧州以外ではカフカス、アルメニア、ペルシア、インド、カンボジア、マレーシア、日本、アフリカのアラブ、ベルベル・カビュル、中央アフリカ、マダガスカル、北米先住民、ケープ・ヴェルデ、フランス系カナダ、ジャマイカ、プエルト・リコ、ハイチ、メキシコ、ブラジルにも、少なくともどちらかが存在する。
 その起源はどこだろうか。ランケはフランスなどラテン世界にもっともオーソドックスな説話が存在し、東に行けばいくほど変化していくとして、西ヨーロッパあたりを起源だろうとしている。まずフランスに説話の原型があり、それがスペイン、ドイツ、イタリアへ広まり、そこが中心となって新たな変奏が誕生した。二人兄弟の説話も北フランスが起源で、第二の中心がドイツ、イタリア、スペイン、デンマークであるとする。ランケはここでいろいろ分類しているが、たとえば日本の説話は1「ラテン系の変型」の(f)であり、主な特色は竜への定期的ないけにえであるとする。逆に2「中部ヨーロッパ型」には竜への定期的いけにえがない。

 もちろんこれでは東アジアの説話が全く説明できない。ランケやトンプソンは欧米の人間だからしかたないが、関敬吾によればこの説話は東アジア一帯に広まっている。八岐大蛇説話も南方文化との共通性との関連が大林太良などによって考えられている。また現在では印欧語族の神話に現れる竜退治も(MT300とはずいぶん異なるが)、その共通原型があるのではないかと指摘されている。ある意味、竜退治説話の広がりは民間説話研究だけでは既にランケで限界を迎えているのである。

マグレブ

 マグレブとは、北アフリカのイスラム圏のこと。以下の物語はカリビア山地。

 タラフサという7頭の蛇の怪物がいる。この怪物は雌である。
 タラフサは森や泉に出没し、水を占領する(ヒュドラヴリトラ)。雌であるはずなのだが、この蛇は毎年につき一人の若い娘を要求する(→聖ゲオルギウスとドラゴン)。もし娘を渡さないとすべての水が占領されてしまい、地域全体の村々が水に飢えてしまうことになる。


*1 スティス・トンプソン『民間説話(上)』pp.53ff.
*2 『民間説話』は1946年原著なので、現在は地理的な拡大を含めてはるかに膨大な量が知られているはず。

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Last-modified: 2008-01-27 (日) 12:48:14 (4513d)