竜とドラゴン

殿堂入り資料一覧

私がこれまで読んできた「竜とドラゴン」関係の資料のうち、「これは絶対に必要!」と思ったものや「この結論は意外だった」と思ったものを「殿堂入り」として並べてみることにしました。
それだけでは何なので、基準として

  1. 原典資料が読める・理解できる専門家によるもの
  2. 近年のものか、近年になっても引用されている古典的論文
  3. オリジナリティがある or 一般的なドラゴン論をくつがえす内容がある

の3つをクリアするようなものを選んでみました。
また、西アジアとインド・ヨーロッパ語族とイスラーム圏にばかり偏っているようにも見えますが、それは、前者2つについてはインドからヨーロッパに至る範囲(「ドラゴン」の範囲)の「起源」を考察するのに絶対に欠かせない文化領域であること(そのくせ「ティアマトはドラゴンだ」程度ですまされてしまう)、後者については日本でいまだほとんど知られていないこと、という理由があるからです。

徐々に増やしていきます。

西アジア Near East

E. Dougras van Buren. 1946. The Dragon in Ancient Mesopotamia. Orientalia 15: 1-45.
F.A.M. Wiggermann. 1992. Mesopotamian Protective Spirits. Styx Publication.
柴田大輔 1998 「古代メソポタミアにおける混成獣グループ(ティアーマトの被造物) マルドゥク神学構築と転用のための戦略的手段」『東京大学宗教学年報』16: 73-95.
1999 Dictionary of Deities and Demons in the Bible, Second Edition.

ヨーロッパ Europe

J.S.P. Tatlock. 1933. The Dragons of Wessex and Wales. Speculum 8.2: 223-35.
Joseph Fontenrose. 1980[1959]. Python: A Study of Delphic Myth and Its Origins. Berlekey: University of California Press.*1
ジャック・ル・ゴフ 2006 『もうひとつの中世のために 西洋における時間、労働、そして文化』 加納修(訳) 白水社
金沢百枝 2008 『ロマネスクの宇宙 ジローナの<天地創造の刺繍布>を読む』 東京大学出版会

インド・ヨーロッパ語族 Indo-European

E. Benveniste, L. Renou. 1934. Vr̥tra et Vr̥θragna: étude de mythologie indo-iranienne. Imprimerie nationale.
Bruce Lincoln. 1980. Priests, Warriors, and Cattle: A Study in the Ecology of Religions. University of California Press.
Calvert Watkins. 1995. How to Kill a Dragon: Aspects of Indo-European Poetics. Oxford University Press.
ジョルジュ・デュメジル 2001 『デュメジル・コレクション4』 高橋秀雄、伊藤忠夫(訳) 筑摩書房
John Shaw. 2006. Indo-European Dragon Slayers and Healers, and the Irish Account of Dian Cecht and Meiche. Journal of Indo-European Studies 34.1: 153-81.*2
Michael Witzel. 2008. Slaying the Dragon across Eurasia. In John D. Bengtson (ed), In Hot Pursuit of Language in Prehistory: Essays in the Four Fields of Anthropology: In Honor of Harold Crane Fleming, John Benjamins, pp. 263-286.*3

イスラーム圏 Islam

G. Azarpay. 1978. The Eclipse Dragon on an Arabic Frontispiece-Miniature. Journal of the American Oriental Society 98.4: 363-74.
E. Esin. 1973. The Cosmic Symbolism of the Dracontine Arch and Apotropaic Mask in Turkish Symbolism. AARP: Art and Archaeology Research Report 4: 32-51.
アジア民族造形文化研究所(編) 1992 『アジアの龍蛇 造形と象徴』 雄山閣出版
A. Daneshvari. 1993. The Iconography of the Dragon in the Cult of the Saints of Islam. In Grace Martin Smith and Carl W. Ernst (eds.), Manifestations of Sainthood in Islam, Isis Press, pp. 15-25*4.

インド India

Ananda Coomaraswamy. 1935. Angel and Titan: An Essay in Vedic Ontology. Journal of the American Oriental Society 55.4: 373-419.
E. Semeka-Pankratov. 1984. The Meaning of the Term Makara in Light of Comparative Mythology. Semiotica 49.3/4: 191-242.

中国 China

林巳奈夫 1993 『龍の話』 中央公論社(中公新書1118)
Michael Carr. 1990. Chinese Dragon Names. Linguistics of the Tibeto-Burman Area 13:2: 87-189*5.

日本 Japan

黒田日出男 2003 『龍の住む日本』 岩波書店(岩波新書831)

オセアニア Oceania

後藤明 1999 『「物言う魚」たち 鰻・蛇の南島神話』 小学館

よく引用される&竜の起源に関する単行本(だけどあまりたいしたことがなさそうなもの)

G. Elliot Smith. 1919. The Evolution of the Dragon. London.
荒川紘 1996 『龍の起源』 紀伊国屋書店
R. Blust. 2000. Origins of Dragon. Anthropos 95: 519-536.
David E. Jones. 2002. An Instinct for Dragons. Routledge.
E.W. Barber and P.T. Barber. 2004. When They Severed Earth from Sky: How the Human Mind Shapes Myth. Princeton: Princeton University Press.


竜やドラゴンについての比較研究は、じつにいい加減なのが多い。何故なのでしょう? それはおそらく、資料に正面から向き合っていないからです。自戒をこめて、林巳奈夫さんの『龍の話』から、少々長いですが、次の文章を引用しておきます。

 龍に限らないが、中国の文献には神々の名称や属性などについての伝承が多く残され、図像も多種類にわたる。そこで十分な根拠を示すことなしに文献に出てくる名前を拾って遺物にのこる何等かの図像に結びつけ、自分はこう思う、ということで話を進める人があとを絶たない。しかしこれは学問ではない。もっと慎重に、その姿や持物などについて或る程度の記載のある神について、それに当てはまる図像を遺物の中から探しては如何か、というと、これもまた意外と不毛なものである。文献の記載は簡略にすぎ、図像の種類はあまりにも多様で、多種類のものが該当してしまうことが多いからである。
 それではどういう資料をどう扱ったら何が解明できるか。それは一概に言うことができない。具合のよい材料とその扱いの方法を思いついたら問題は解けたと同じである。筆者はその方の専門ではないが、清朝の考証学を好む。そして自分のやっていることを、おこがましくも考古遺物をも合わせ用いた考証学だと意識している。とはいえ、解明したいと思う部面に関係した都合のよい考古資料は、必ずしも丁度よく発掘で出てくるとは限らず、また既に出ていても、その使い途に気づくとは限らない。従って筆者が解明を手がけた部面は大きく偶然に左右されている。この書物は筆者の研究から龍に係るところをとり上げてまとめたものであるが、穴だらけであるのはそのためである。そうではあるが、未だ証明のできていないことを想像を混えて引き、話を面白くしようというサービス精神は、筆者にはない。御勘弁願いたい。

もちろんこのウェブサイトは学問ではないから「これは学問ではない」と言われても「そうですよ」と言えるわけだし、「サービス精神」がないと人が寄ってこないからそこそこ打ち出す必要はあるとも思うのですが、それでも、林さんの語る、資料に対するスタンスというのはなによりも大事なものだと思います。----toroia


*1 竜退治神話に関する古典的著作だが、印欧比較神話学にまったく言及していないという意味でも驚くべき著作。今となっては古びた民話学的手法や儀礼的解釈など読んでいてつらいが、インデックス的な資料としては今でも第一級。
*2 バンヴェニスト&ルヌーからデュメジル、リンカーン、ワトキンスを経由してジョン・ショウに至る、インド=イランの竜比較神話学。そしてヴィッツェルは世界規模へ。
*3 21世紀初頭現在の比較神話学において竜がどのように扱われているかの一例。「インド・ヨーロッパ語族」ではなく世界規模の比較をしているけど、著者がもともと印欧研究者っぽいのでここにいれる。
*4 Daneshvariは2011年にOf Serpents and Dragons in Islamic Art: An Iconographical Studyなる本を出版している。現在入手努力中。
*5 これは本当にすごい!労作。中国語の「竜」や類義語を数十リストアップして語源を論じるのみならず、日本語やアイヌ語にまで手を伸ばしている。小樽商科大学の先生だったらしい。

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Last-modified: 2009-08-07 (金) 18:50:05 (4267d)