クウェラアク・クタル

Kweraák Kutár

地域・文化:北米先住民・アリゾナのユマ


 原初の悪の存在。諸病の根源。

 世界の初めのとき、水だけがあらゆるところにあった。クウィクマト(Kwikumát)ともう一人の名無しが、水の底で動き続けていた。あるとき、轟音とともにクウィクマトが水面にあがってきて、水の上に立った。名無しのほうも水面に行きたかったので、「どうやってそこに行ったんだい?」と訊ねた。彼は「眼を開けたのさ」と答えた。名無しは眼を閉じたままだったのだ。そこで名無しが目を開けると、水が降ってきて彼の目を見えなくしてしまった。どちらにしても彼は水面にやってきたが、この名無しに対してクウィクマトはクウェラアク・クタル、つまり「盲目の老人」という名を与えた。
 世界は真っ暗だった。日月星辰もまだなかった。クウィクマトは楽しくなかった。彼は四歩北に進み、そして四歩戻った。そして同じように東西南をステップした。こうして水が引いていった。彼は「ここが乾いた地にになるのだ」などと歌いながら、水をかき混ぜた。彼が撹拌したところは島になった。
 クウェラアク・クタルは「アカ(aqa)、これは小さすぎる。人々が住めるスペースがない」と言った。それに対してクウィクマトは「我慢しろ、老いぼれが」と答えた。クウェラアク・クタルはその場に座って泥をつかみ、泥人形(hantapáp)をつくった。自分のやりたいように作ったので、クウィクマトの指示はあおがなかった。クウィクマトは彼の後ろで「何を作ろうとしてるんだ?」と聞いた。「人々さ」と彼は答えた。「その前に私が作るのを見ていなければ」と言った。クウェアラク・クタルは黙っていたが、怒っていた。
 その後クウィクマトは月をつくったが、その間もクウェアラク・クタルは人間を作り続けていた。クウィクマトは人間を作ることに関して先行されるのを恐れたが、何よりもクウェアラク・クタルが作っている人々は形が悪かった。脚はあるがつま先はなく、腕はあるが指がない。クウィクマトはユマや近隣諸族の男女を作り、クウェアラク・クタルの出来損ないを責めた。彼は悲嘆にくれたが「でもこの腕ならひとすくいで沢山つかめるし」と抵抗した。しかしクウィクマトは、「いや、それは正しくない。私は指を10本作ったから、一つ傷ついてもまだじゅうぶんに動かせる。でもお前の人間は腕が一本なくなったら終わりじゃないか」と反論した。そう言って彼はクウェアラク・クタルのほうに飛びかかり、彼が作っていた指を水へと蹴り飛ばした。クウェアラク・クタルは激憤し、指の後を追って水の中に入り、大きな渦巻きを作り出した。そこからあらゆる病害が発生した。クウィクマトはすぐに渦巻きを足でふさいだが、それでもいくつかの悪風は逃げ出した。もしぴったりとふさがれていれば、世界に病気はなかっただろう。クウェアラク・クタルはずっとそこにいて病気を振りまいているし、クウィクマトはそれを監視していた。
 クウィクマトは4つの部族を作り出した。それぞれ東西南北に振り分け、たがいに結婚することのないようにした。しかしあるときユマの女が「ココパの男のほうが美形だから、彼と結婚したい」と思った。クウィクマトはそれに気づき、女にユマの男としか結婚してはいけない、と言ったが、彼女は信じなかった。そのとき水の中からクウェアラク・クタルが現れ、彼女に「クウィクマトが言ったことを信じるな。あいつはお前には何もできないよ。でももし俺を信じるのなら、財産が増えて一日に6回食事できるぜ」と言った。クウィクマトはクウェアラク・クタルが現れたことに気付いたが、彼を見なかった。彼が女のところに飛んでいくと、クウェアラク・クタルは大地に消えた。クウィクマトは「お前は私が言ったことを信じなかった。だから私はお前もろとも前人類を滅ぼすことにする」と宣言した。クウィクマトは北に向いて何かを4回素早く語ると、雨が4日にわたって続いた。水が地の面をおおった。人々は雨が引くまで泳いだ。クウィクマトは彼らをとり、あるものをマネシツグミ、鹿、ハゲタカに変えた。ユマの男だけが人間のままでいた(創世神話は続く)。

関連項目


参考資料 - 資料/602


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Last-modified: 2010-06-28 (月) 05:50:03