オリエンス†
Oriens
Ὀριένς
地域・文化:悪魔学
ラテン語で「東」を意味する悪魔。
ラテン語圏での初出はおそらくオーヴェルニュのギヨーム『被造物の世界について』(1230年ごろ)で*1、彼によると『大円環』(Major circulus)と呼ばれる悪なる技法のなかにおいて、世界の四つの方位からやってくる四人の悪魔の王の一人だとされている。彼らは軍勢や郎党を付き従えている。ほかは../オッキデンス、../レックス・アウストリ、../レックス・セプテントリオヌス*2。
イタリアの占星術師チェッコ・ダスコリ(1257-1327)もまた『天球論注解』(Sphera cum commentis)で、「ゾロアスター」(Zoroastes)が四方位に立つ徳の高い精霊を発見した、と語り、その名としてオリエンスと../アマイモン、../パイモン、../エギムを挙げている。チェッコによるとオリエンスらは天の上層階級に属する精霊(Spiritus)であり、それぞれ25の精霊の軍団を付き従えている。しかし彼らは、「その気高い性質のゆえに」人間の血や、死人や猫の肉をいけにえとして求めるのだという。ビブリオテーク・ナショナルのラテン語写本7337(15世紀)による『天球論注解』ではオリオン(Orion)、アギモン(Agimon)、パギモン(Pagimon)、エギン(Egin)になっているらしい*3。
oriensという単語は明らかにラテン語であり、この悪魔の名称もほぼ確実に西欧キリスト教世界に由来すると思われるが、この語をそのままギリシア文字に転写したὀριένςについても、かなり時代をさかのぼることができる。たとえば上記の西欧文献よりも古い可能性があるものとして、中世ギリシア語圏(ビザンツ帝国)の旧約聖書偽典『ソロモンの契約』校訂版C, X.15にはオリエンスの名がみえ、「東方の五百の精霊(pneuma)を統率し、あらゆる可能なことを行なうことができる」と紹介されている。(C版はいくつかある編集版のなかでももっとも新しいと思われるが、正確な時期は不明)*4。また年代は不明だが(中世盛期?)『ギリシア語占星術写本目録』(CCAG)IX.2でも「四つの風への祈祷」のなかにオリエンスらの名が現われているという*5。
近世ドイツで書かれたグリモア『アブラメリン』では、八人の副王(Unterfürst)のうちの一人として多くの精霊(Geist)を従属させている*6。
関連項目†
参考資料 -