トート

Tod

地域・文化:ドイツ


 ドイツ語における「死」の擬人化。英語のDeathにあたる。日本語でいう死神のようなもの。英語では「死神」はDeathで普通の「死」はdeathになるが、ドイツ語では名詞は普通名詞も固有名詞も語頭は大文字になるので文脈からTodという単語が何を意味するか推測しなければならない。

 トートは古代ギリシアの「死」タナトスと異なり、必ずしも明確な実体を想定されていた神格だというわけではなく、単に死神と訳すよりはカッコつきの「死」として訳したほうがいいことも多い。
 たとえばトートは死者の手足を伸ばすとか大鎌を持っているとか骸骨の姿をしているとも言われるが、実際にそのようなことをしたりそのような姿をしている超自然的なものが存在していると考えるよりは、死という現象のシンボル、そのアレゴリー化と考えたほうが適切であることのほうが多いようにも思われる。つまりトートが通時的に存在しているのか、ランダムな現象として現れているのか、の違いである。
 トートに導かれる、といった言い回しは死という現象の比喩であるかもしれないし、本当に人々に死をもたらす存在が導いている、と考えられていたかもしれない。というより両者を区別すること自体、あまり意味のないことなのかもしれない。これはちょうどペストのような疫病を表す単語が中世において現実的な現象とそれを引き起こす超自然的存在の両方を意味していたのと同じようなものである。または英語のfateという単語が抽象的な概念と「運命の女神」どちらも意味しうるのと近いともいえる。代名詞がEs/it(現象、概念としての「死」)ではなくEr/he(擬人化された「死神」)であったとしても状況は変わらない。
 また「死」という現象は死すべき存在の最終的な形態でもあるため、「死」すなわち我々人間の行き着く姿、つまり死者や幽霊としばしば混同されることもあったか、あるいは意図的に同一視されていたこともある。しかし死者が生きている人間を死に引きずりこんだとしてもそれがトートと呼ばれることはなく、悪霊だとか幽霊だとか呼ばれるだけである。

 キリスト教の「死の天使」が死神と呼ばれることもあるが、稀であり、トートやデスとは区別すべきである。

関連項目


参考資料 - 資料/373


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Last-modified: 2019-07-30 (火) 06:43:25