Giants in Those Days: Folklore, Ancient History, and Nationalism.

Walter Stephens. 1989. Lincoln: University of Nebraska Press.

ウォルター・スティーヴンズ『あのころ巨人がいた 民間伝承、古代史、そしてナショナリズム』

キャロル・ローズの事典にはあまりいい思いはしないのだが、本書のような良著を教えてくれたことについては感謝せざるを得ない。スティーヴンズは中世後期から近世にかけてのヨーロッパにおける巨人の伝統、なかんずくフランソワ・ラブレーの『ガルガンチュワとパンタグリュエル』における巨人が民間伝承や叙事詩によるものという従来の見解(ミハイル・バフチンを代表とする)を、ヴィテルボのアンニウスというイタリアのルネサンス人が捏造した偽書などに描かれた「古代の巨人」と彼らから同時代の王侯貴族にいたる系譜学に求めることで刷新しようとするものだ(……と、思う)。というわけで、本書はラブレー研究書として分類されることも多い。

ここでいう「古代」の中心となるのは、旧約聖書の主人公であるノアたちである。聖書における洪水前後まで人間が巨大で、だから長寿だったという考えは実はアウグスティヌスの『神の国』ですでに表明されていて、そのことを知らない現代の読者はピンとこないかもしれないが、とにかく古代の系譜にはすでに巨人が混じりこんでいたのだ。

ちなみにユルギス・バルトルシャイティスの『イシス探求』もアンニウスを含め似たようなテーマを扱っているが、スティーヴンズは気づいていなかったようだ。どちらにしても歴史学的には二流三流どころか偽書であることがはっきりとわかってしまっている資料なので取り上げられることはないが、同時代の思想として、ナショナリズムの発露として、そして巨人の伝統として、それらは非常に重要な資料だったのだ。スティーヴンズは、いわば彼らルネサンスの巨人を本書によって復権させたのだといえるだろう。


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Last-modified: 2008-09-11 (木) 00:11:30