*ナース [#o48c2764]
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地域・文化:グノーシス主義

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 キリスト教の教父ヒッポリュトスが『全異端駁論』のなかで引用しているグノーシス派の神話「バルクの書」に登場する、諸悪の根源たる蛇。
 キリスト教の教父ヒッポリュトスが『全異端駁論』のなかで引用しているグノーシス派の神話「バルクの書」に登場する、諸悪の根源たる蛇。語源はヘブライ語の「蛇」ナーハーシュ(nāhāš)。

**神話のあらまし [#k4e81dfb]
 はじめに、「万物の生まれざる始原」とされる三つの存在があった。「善なる者」、「生まれた万物の父」(エローエイムElōeim, Ἐλωείμ)、そして女性原理である「万物の母」(エデムEdem, ἘδὲμとイスラエルIslaēl, Ἰσραήλ)である。エデムは陰部までは処女、下半身は蛇という姿をしていた。エローエイムはエデムに欲情をいだき、交接した。その結果、まず父のためにミカエール(Michaēl, Μιχαήλ)、アメーン(Amēn, Ἀμήν)、バルク(Barouch, Βαρούχ)を始めとする12の天使が生まれた。次いで母のために[[../バベル]]、[[../アカモート]]、ナース、[[../ベル]]、[[../ベリアス]]、[[../サタン]]、[[../サエル]]、[[../アドーナイオス]]、[[../カヴィタン]]、[[../ファラオト]]、[[../カルカメノス]]、[[../ラテン]]という天使が生まれた。これらの天使は総じて「パラダイス」と呼ばれた。~
 天使たちは寓意的に「木」と呼ばれた。父の三番目の天使であるバルクは「生命の木」、母の三番目の天使であるナースは「善悪の知識の木」だった。~
 エローエイムとエデムは人間(アダム)を造り、父は霊を、母は心魂を入れ込んだ。そしてエバもつくられた。~
 天地創造が終わったとき、母の12の天使は四つの始原に分けられ、それぞれが「川」と呼ばれるようになった。それは聖書神話でエデンの園にあるとされるペイソン(ピション)とギホンとチグリスとユーフラテスである。彼らは一か所にとどまらず、周回している。四つの各部分において、それぞれの川の力と種類に応じて、悪しき時と諸々の病いの状態が生ずる。これが絶えることなくこの世を巡っている。この世の悪は、エデムのために生まれた12の天使たちに由来するのである。~
 天地創造が終わったとき、エローエイムは天上へとのぼったが、エデムはのぼることができなかった。被造物はエデムに委ねられた。このとき彼女はエローエイムに見捨てられたことを知り、嘆き悲しんだ。彼女はバベル(アフロディテー)に命じ、人間に不倫と離婚を引き起こさせた。またナースには、人間にあるエローエイムの霊を懲らしめるために、大きな権限を与えた。エローエイムはそれを見て、人間の内なる霊を助けるためにバルクを遣わした。「善悪を知る木」(ナース)を食べてはならないと告げるためである。ナース以外の木には情欲(パトス)はあっても不法ではなかったからである。しかしナースはエバに近づいて姦通し、またアダムにも近づいて同性愛行為を行なった。姦通と同性愛は「不法」だからである。この時から、悪が人間を支配するようになる。~
 エローエイムは諸々の努力の末に、イエスを通じて人間のなかの霊を救済しようと試みる。ナースはこれまでに現われた預言者と同じようにイエスも誘惑したが、失敗した。そこで彼は腹を立て、十字架にかけようとした。しかしイエスはエデムの身体を木に残し、善なる者へと上昇していった。~
**関連項目 [#h76b8200]
-[[悪魔学/サタン]]

-[[キーワード/蛇]]
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参考資料 - [[資料/955]]; [[資料/956]]:201

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