ドラコス

Drakos

地域・文化:ギリシア


 近代ギリシアの民話中に現われることの多い怪物。
 語源は「竜」「蛇」を意味する古代ギリシア語のドラコーン(drakōn)だが、民話の中ではドラゴンや動物型の怪物ではなく、オーガ(人喰い鬼)のような妖怪として語られている。ギリシア民話では、いかにしてこのドラコスをだまし、また退治するかが重要なモチーフになっている。なお、ギリシアと同じくバルカン半島のルーマニアの民話に現われるズメウやブルガリアの民話に現われるズメイは、民話の中での機能はドラコスと類似しているものの、蛇の怪物として想像されている。
 近代のリトアニア、セルビア、ギリシアなどでは、ドラゴンという言葉は竜の怪物ではなく山に住んでいる人食い巨人であることが多いらしい。

 例えば、次のような民話にドラコスが現われている。タイトルもそのまま「名高い(Polyphoumismenos)ドラコス」である。
 この民話ではドラコスは隻眼で洞窟内に棲んでいるということになっているが、もちろんこれは196: 中のポリュペモス物語をそのままこの民話の中に持ち込んだものであり、ドラコス一般が隻眼であった、というわけではない。

 あるところに、非常に美しい王女がいた。王子という王子はこぞって王女に求婚したが、王女には結婚しようなどという気はさらさらなかった。無数の言い訳を考えてなんとか嫁入りを避けようとしていたのである。しかし、あるとき、これまた非常に美しい王子が、一目王女を見ようとやってきた。王女はその王子を見て一瞬ときめいたが、気を取り直して、本当に自分の相手としてふさわしい人であるか確かめようとした。そこで策略深い王女が考えたのが、「名高いドラコスの黄金の杖をとってきた男と結婚する」というものだった。黄金の杖とは、人喰い巨人ドラコスが戸に立てかけ、戸の開け閉てに使っているものである。
 王子たちはその宣言を聞いて震え上がった。「名高いドラコス」は、ドラコスの中でもひときわ獰猛で力強いことで知られていたからである。名高いドラコスは1つ目で、寝る時も起きている時もいつもその目を見開いていた。そして、目にしたものは何でも食ってしまっていた。そんなドラコスに近づいて、美貌の王女のためにみすみす自らの命を落とそう、などと考える王子はいなかった・・・・・・一人を除いて。
 先の美男の王子は、王女への愛か身の破滅か、どっちかが自分の行く末だと割り切って、ひそかに、ドラコスの黄金の杖を奪う旅に出た。彼は、そのことを誰にも知らせなかった。
 王子は荒れた道程を昼夜なく進んでいった。ある日、疲れて木の下で眠ってしまった王子は、目が覚めると遠くに老婆がいることに気付いた。老婆はフライパンの中に粉を入れていたが、どうやら盲目であったらしく、粉はすべてフライパンの外にこぼれてしまっていた。王子は老婆のところに近づき、手伝ってやった。老婆は王子の親切心に感心して、彼が悩んでいることを尋ねた。王子はもとより老婆に黄金の杖探索を助けてもらえるとは思っていなかったからあいまいな返事でごまかした。でも、彼女は普通の老婆ではなかった。老婆は王子に、まずドラコスへと至る道筋を教え、そして次に、ドラコスの洞窟内に入って、怪物のひげに結ばれている黄金の鍵をこっそり奪い取る方法を伝授した。その黄金の鍵で宮殿の扉を開けると、中に犬と馬がいる。えさが間違って置かれているので、それを直してやったら馬がその後のことを教えてくれるでしょう、と。王子は大変感謝し、銀貨を何枚か置いて旅を再開した。
 ずっと進むと、大きな洞窟が見えてきた。洞窟の入り口は開いており、なかにドラコスはいない様子だった。そこで王子は酒の中に老婆からもらった粉を入れると、自分は自分で腹を満たして洞窟の小さな穴の中に隠れた。しばらくすると、鈴の音が聞こえてきた。ドラコスと羊の群れが帰ってきたのである。しかしドラコスは酒を飲むと、食事を終えてすぐに眠ってしまった。老婆の粉は睡眠薬だったらしい。王子はハサミでひげを切り、黄金の鍵をゲット。しかし、これぐらいのことでは時間稼ぎにしかならないと思ったのか、王子は丸太を持ち出してその先を鋭く尖らせた。そして火の中に先端を突っ込み、焼けてきたところでドラコスの目にぐさり! 名高いドラコスは叫び声をあげ、あたりの全てのものを起こした。他のドラコスたちが名高いドラコスの洞窟の前にやって来たが、洞窟を塞いでいる岩が重すぎて開ける事ができなかった。彼らは「酔ったのだろう」と言ってそこを去っていった。ドラコスは扉を開け、羊を一頭一頭なでまわしながら外へ出していった。王子は大きくて毛のふさふさな羊のおなかにしがみついてたため、ドラコスに気付かれることなく外に出ることができた。
 ここでドラコスの出番は終了。王子が道を進んでいくと、老婆の言っていた宮殿が見えてきた。黄金の鍵で扉を開けると、そこには鎖につながれた犬と馬がいた。犬の前には藁、馬の前には骨が置かれていた。おい逆だろ、ということで王子はえさをいれかえてやった。食べ終わると馬と犬は話し出した。ここはドラコスの宮殿だから危険である。しかし王子はドラコスを退治したことを語り、老婆のことも話した。すると動物たちは、その老婆は「美しいミラ」つまりギリシア神話におけるモイラ(運命の女神)であり、他のミラたちに嫉妬されて盲目にされ、呪いをかけられ、王子が現われるまで誰もミラを愛したり同情したりするものはいなかった、と打ち明けた。さらに王子に、捕らわれの王女たちを助けるように言った。さて王子が王女2人を解放すると、かわりに黄金の杖をもらった。そしてその杖で犬と馬の鎖を解き放ち、さらに、下の方にいた動物たちを杖で触れて回った。この動物たちは、運悪くドラコスに見つかって変身させられていた人間たちだったのである。黄金の杖は人間たちを元の姿に戻したのだった。
 王子は馬犬と王女2人を連れて王女の故郷へと向かった。王女を見た王は喜び、王子に2人のうちどちらかをやる、と言った。しかし王子は美しい王女のことを忘れてはおらず、それを丁重に辞退した。しかしそこで馬と犬が、自分たちも杖で触れてくれ、と頼んだ。王子がそうすると、馬と犬は人間の王子の姿になった。彼らもまたドラコスに捕らわれの身となっていたのである。ちょうど2人ということで王女たちは元・馬&元・犬の王子たちと結婚することになった。
 さて、美しい王子が旅に出たことを知った王女は絶望し、深く落ち込んで病気になってしまった。病気はどうやっても治らず、扉も全て閉ざされたままだった。そこに王子がやってきて、杖で扉をどんどん開けていって王女のところについた。王子を見るなり王女の健康は一気に回復→結婚→めでたしめでたし。

関連項目


参考資料 - 資料/155:; 資料/217:166


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2010-06-28 (月) 06:02:27 (3434d)