フン・カメー

Hun-Camé

地域・文化:マヤ・キチェー


 「第一・死」。キチェーの儀式暦による名前。
 人間の敵が住む地下の国シバルバーの主の長で、常にヴクブ・フンアフプーと対になって現われる。

 以下、彼らの登場する物語の粗筋を書いたが、どういうわけか妙に長くなってしまったので暇な時に読んで下さい。
 要点としては、

  • 遊び好きのフン・フンアフプーとヴクブ・フンアフプーがシバルバーの主たちに殺される。
  • フン・フンアフプーの唾からイシュバランケーとフンアフプーが生まれる。
  • 兄弟はシバルバーの主たちの策略を切り抜ける。片方は一度死ぬが甦る。
  • 兄弟は一度シバルバーの主たちの思い通りに死んで復活し、だまし討ちをする。
  • シバルバーの国は罪人などしか入れられない、衰退した国になる。  という感じ。

 キチェーの神話『ポポル・ヴフ』第2部第1~2章では、巨人を倒した英雄フンアフプーとイシュバランケーの父親であるフン・フンアフプーたちの物語が語られている。

 フン・フンアフプーとヴクブ・フンアフプーは人間の生まれる前、イシュピヤコックとイシュムカネーの間に生まれた兄弟だった。フン・フンアフプーの2人の息子は工芸や芸術に秀でていたが、彼らは一日中、さいころ遊びや球戯にあけくれていた。そして妻が死んだ時も、彼らは球戯で遊んでいた。そしてシバルバーへ行く道でも球戯を続けていた。その音があまりにうるさかったため、シバルバーの主であるフン・カメーとヴクブ・カメーなどは、地下の国に対して恐れることもなく、敬意も払わない彼らをシバルバーにおいて負かすことにした。そこで、フン・カメーとヴクブ・カメーシバルバーシキリパットクチュマキックアハルプーアハルガナーチャミアバックチャミアホロムアハルメスアハルトコブシックパタンそれぞれに、人間を痛めつける役目が与えられた(ちなみに、この時代まだ人間は生まれていないはずである)。しかし、実際に彼らシバルバーの主たちが欲しがっていたのは、兄弟の遊び装飾道具であった。
 フン・カメーとヴクブ・カメーは使者の4羽のミミズクであるアフポップ・アチフに、兄弟のところへ伝言を伝えさせた。それを知った彼らは悲しみに暮れる家族に別れを告げ、アフポップ・アチフとともにシバルバーへ向かった。しかし、シバルバーに到着し、主たちの集合室に来たとき、彼らはすでに「負けていた」。集合室にいたのは単なる某人形であるにも関わらず、フン・フンアフプーとヴクブ・フンアフプーはそれに気付かないでお辞儀をしてしまったのである。ついで、彼らは焼き石に座ってしまい、大火傷を負ってしまった。次に彼は主たちに「闇の館(ケクマ・ハ)へ行って今晩は寝るのだ」と言われた。闇の館は真っ暗闇であった。使いのものが火の燃えているオコテ松と火のついた葉巻を持ってきて、それを燃やしつづけるのだ、明け方になるまで燃やしきらず、形を崩さずに返しにこい、というシバルバーの主たちの伝言を伝えた。しかし松はすぐに燃えてしまい、葉巻もあっという間になくなってしまった。2人は三度、勝負に負けたのである。
 翌朝、フン・カメーとヴクブ・カメーは2人のところへ行って、松と葉巻のことについて尋ねた。しかし彼らの手元には何も残っていなかったので、主たちは彼らを供儀にすることにした。早速殺された2人はプクバル・チャフというところに埋められたが、フン・フンアフプーの首だけはフン・カメーとヴクブ・カメーによって切り落とされ、道端に立っている木に吊るされた。首が吊るされると、突然この木から木の実が生えてすぐに大きくなり、どれもフン・フンアフプーの頭と同じように見えて、どれがどれだかわからなくなってしまった。彼らはそれを不思議に思い、「誰もこの実をとってはならない。この木の下にたたずんでもならない」と言い渡し、シバルバーのものを誰もそこに寄せつけないようにした。

 第3章からは、フンアフプーとイシュバランケーが誕生し、シバルバーで復讐を果たす物語である。
 ある日、イシュキックという娘は、好奇心から木に近づき、フン・フンアフプーの頭が吐いたつばにより妊娠してしまう。6ヶ月経ち、父親のクチュマキックはイシュキックの変化に気付いてフン・カメーとヴクブ・カメーに相談した。彼らは、問い詰めて本当のことを言わなかったら供犠にすべきだと言った。しかし彼女はありのままのことを言ったため、クチュマキックアフポップ・アチフを呼び寄せて彼女を主のもとへ連れて行かせた。しかし彼女は鳥たちに嘆願し、もし本当に無実の自分を殺して心臓を持っていけば罪人になり、フン・カメーとヴクブ・カメーも自分のものになってしまう、と言った。彼女は少しの血を流し、そして「グラナの赤木」の血のような樹液をかわりに入れ物に入れた。その樹液は赤く、心臓の形のように固まった。イシュキックはアフポップ・アチフを祝福したので、この鳥たちは彼女たちに仕えることにした。
 アフポップ・アチフがフン・カメーとヴクブ・カメーのところに持ってきたのは血のような樹液のかたまりだったのだが、それは火に焼かれる匂いまでも血のようであり、みな考え込んでいた。その間に鳥たちは飛び去ってしまった。イシュキックはシバルバーの主たちを負かしたのである。
 そうして生まれたフンアフプーとイシュバランケーは、まず異母兄弟と対決してこれをサルに変え、次にトウモロコシを耕し始めた。しかし、どういうわけか動物たちがそれを妨害する。彼らは待ち伏せして捕まえようとするが、どの動物も素早く、なかなか捕まらない。最後にようやく捕まえたのがネズミだったが、ネズミは彼らに、トウモロコシを耕すのではなく、あなたがたには別の仕事がある、と言った。兄弟はこのネズミに従い、まず祖母を騙して家から出し、家の中に隠してある父親の形見である球戯用の道具を、ネズミの協力で入手した。
 彼らはそれから2人だけでその球技を楽しんだが、またもやこの騒音に我慢ならなくなったのが地下のシバルバーの住人たちである。彼らは再び使者を出し、フンアフプーとイシュバランケーに球戯の手合わせを申し込んだ。
 この伝言はまず家にいた祖母に伝えられ、悲しみの祖母はそれをシラミに伝え、シラミはタスマールというカエルに食べられ、カエルはサキカスという蛇に食べられ、蛇はヴァックという鷹に食べられ、兄弟の遊ぶ球戯場についた。そして彼らはそれぞれ飲み込んだものを吐き出し、最後にシラミが伝言を伝えた。それを聞いた2人はひとまず祖母の家に帰ることにした。別れを告げるためである。そして、自分たちの身代わりにトウモコロシの種を2つ、家の中の乾いた土に植え付けた。
 フンアフプーとイシュバランケーは吹筒をかついでシバルバーへと向かった。まず、最初の試練は膿の川と血の川であった。シバルバーの主たちは、そこで2人を滅ぼそうとしたのである。しかし2人は吹筒を渡しにして川の中には入らずそこを渡りきった。次に、2人は黒い道・白い道・赤い道・青い道に分かれる十字路についた。彼らはシバルバーへの道を知っていたので、シャンという虫を飛ばして情報を集めさせることにした。シャンは蚊であり、2人は、シャンに、最初に座っているやつから順に刺していくのだ、と指示した。
 蚊はまず、最初に座っている飾りのたくさんついたものを刺した。しかしそれはただの木の人形であり、何も言わなかった。次も言わなかった。しかし、次のものはフン・カメーで、「アイ」と叫んだ。すると隣のものが「どうしたのです、フン・カメーさん」と言った。そして、それ以降順に蚊はシバルバーのものたちを刺していき、ヴクブ・カメーシキリパットクチュマキックアハルプーアハルガナーチャミアバックチャミアホロムパタン、キクシックキクリスカックと、皆それぞれお互いの名を呼び合った。こうして、最後に隣の名前を呼んだキクレー以外全員の名前が蚊に知られてしまったのである。ちなみにこのシバルバーの主のリストはフン・フンアフプーとヴクブ・フンアフプーのときとは異なり、アハルメスアハルトコブシックは名前を消し、新たにキクシック(シックのことか?)、キクリスカックの名前が現われている。世代交代か勢力争いでもあったのだろう。
 フンアフプーとイシュバランケーはやがてシバルバーの主たちのいるところに着いた。そのうちの1人が、彼らを騙そうとして、座って飾りたてられた木の棒人形に挨拶をしろ、と彼らに命令した。しかし兄弟はそれがただの人形だということを知っていたので、挨拶をしなかった。そして本物の主たちにそれぞれ名前を呼んで挨拶をしたのである。彼らは自分たちの名前を知られないように願っていたが、それは無駄に終わってしまった。フン・フンアフプーやヴクブ・フンアフプーと違い、兄弟は騙されなかったのである。
 次に、主たちはフン・フンアフプーとヴクブ・フンアフプーにしたのと同じように、彼らを焼け石の上に座らせようとした。しかしその企みも2人に見破られてしまった。そこで主たちは、彼らに「闇の館」へ行くように言った。使者がやってきて、松明と葉巻を渡した。以前と同じように、それを形を崩さずに翌朝返さなければならないのである。しかし、2人は松明には火をつけないで赤いオウムの尻尾の羽根をつけ、葉巻にはホタルをつけて彼らの眼を欺いた。というわけで、翌朝、まったく松明と葉巻が減ってないのを見て驚いた使者は、主たちのところへと知らせに行った。主たちは彼らと「球戯」をして、その間に彼らを殺そうとしたのである。
 まずはシバルバーの球とシバルバーの方法(?)で、シバルバーの主たちがボールを相手の環めがけて投げつけた。そしてすかさず石刀を取って彼らを殺そうとした。しかし、ボールははね返ってしまった。兄弟たちは、彼らが自分たちを殺そうとしているのではないかと抗議して、これなら帰る!と言った。彼らが逃げると困るので、シバルバーの主たちは、今度はフンアフプーとイシュバランケーの球を使って勝負をすることにした。でも、今度は兄弟たちが簡単に球をシバルバー側の環に入れてしまったので、あっという間に勝負は終わってしまった。
 そこで、次に主たちは、シバルバーの花を入れた瓢(ひから)を4つ、明け方までに用意するように命じた。そして兄弟たちを「剣の館」に入れたのである。ここは多くの剣が林立しており、彼らはそれらに兄弟が裂かれて死ぬことを望んでいた。でも賢い兄弟たちは、剣たちに獣の肉を与えるような約束をしたので、剣たちはおとなしくしていた。そして木の葉や花を切り取る蟻たちをありったけ集め、この虫たちに、フン・カメーとヴクブ・カメーの庭から指定された花を切り取ってくるように言った。花の番人はイシュプールプヴェックプフユーといったが、彼らは蟻がみずからの庭の中の花を切り取っていることに全く気付かないまま、お互い相手の名前を呼び合っていた。蟻はついでに彼らの羽根や尾さえ切り取ってしまったが、それにさえ全く気付かないまま夜はすぎていった。
 翌朝、2人はたっぷり花の入った瓢を4つ、シバルバーの主たちの目の前に持ってきた。ここでもまた、シバルバーの主たちは負けてしまったのである。すぐに球戯が行われたが、今度は何回か引き分けがあっただけで終わってしまった。
 2人はそれから「寒冷の館」に入った。シバルバーの主たちは、ここで2人が凍え死ぬのを期待していた。しかし彼らは木の破片を燃やし、寒さを凌いだのである。次の「ジャグヮールの館」も同じで、兄弟は骨をジャガーに与えて危機を避けた。
 「蝙蝠の館」は少し違った。そこには怪物蝙蝠のカマソッツだけいたのだ。カマソッツは硬い棒を持ち、現われるものは何でもこれで殴り殺してしまうという恐ろしい存在だった。でも兄弟たちは吹筒の中で寝ていたので、最初のうちはカマソッツに襲われるということはなかった。カマソッツたちは集まって相談しあっていた。そして一本の吹筒の口のところでじっと動かず待っていた。イシュバランケーは、もうそろそろ夜が明けたかと思い、フンアフプーに、外の様子を見てくるように頼んだ。フンアフプーも外を見たかったので、ひょいと吹筒の口から首を出してしまった。そこをすかさずカマソッツが首を切断したのである。シバルバーの主たちは大喜びでフンアフプーの首を持ってきて、球戯場に吊るした。
 イシュバランケーは夜のうちに多くの動物を呼び集め、それぞれの食べ物を聞いた。獣たちはすぐに自分たちの食べ物を取りにいったが、それからノコノコと亀が歩いてきた。亀はフンアフプーの胴体の端まで来ると、たちまちフンアフプーの頭になってしまった。そのとき、多くの予言者や「天の心」フラカンが蝙蝠の館の上へと舞い降りてきた。
 フンアフプーの顔を作ることは簡単ではなかった。でも、夜明けも近づくと、何とかそれなりの顔立ちになり、口を利くことさえできるようになった。時間がなかったのでソピローテという蒼鷹が太陽をおおって大地をかげらせ、日の出を遅らせた。このようにして、彼らは夜明けの涼しいうちに球戯場へと出かけた。
 シバルバーの主たちはイシュバランケーとフンアフプーを挑発し、試合が始まった。しかし球はさっそく樫林のなかに飛んでいってしまった。そこにイシュバランケーが用意しておいたウサギがいたのである。ウサギは球のふりをしてシバルバーの主たちを騙し、遠くへと逃げていった。その間にイシュバランケーは球戯場にあった本物のフンアフプーの頭を取り返し、フンアフプーの身体にすげ替えた。この間にシバルバーの主たちは球を見つけ、球戯場に戻ってきた。でも、イシュバランケーは亀に石を投げつけて粉々にしてしまったので、シバルバーの主たちは困ってしまって「負けてしまった」。

 第12章からはシバルバーの主たちがどのようにして2人に殺されたかの物語である。
 シバルバーの主たちは、どうやっても殺すことができなかったフンアフプーとイシュバランケーを、火あぶりにして殺してしまおうと考えていた。それを察知した兄弟はシュルーとパカムという「知恵者」(予言者)を呼び寄せ、シバルバーの主たちに尋ねられたら言うべきことを伝えた。
 2人は、自分たちが死ぬことをもう知っていたのである。
 シバルバーの住人は、大きな焚き火を準備して兄弟をシバルバーへと招きいれた。フン・カメーは兄弟を火の中に誘おうとしたが、彼らは自分たちが死ぬことは知っているといい、自ら焚き火の中へと飛び込んで、焼け死んでしまった。シバルバーの住人たちは大喜びし、彼らの骨をどうするかについてシュルーとパカムに尋ねた。この予言者たちは言われたとおりに、骨を粉々に砕いて川に流すように勧めたので、結局フンアフプーとイシュバランケーは元通りに再生してしまった。ちなみに、そのとき彼らは「人魚」ヴィナク・カルの姿をしていた。
 それから6日後、彼らは非常にみすぼらしく老いぼれ決してその本性が割れるような格好ではない姿をしてシバルバーの住人のところへとやって来た。彼らはおもむろに踊りを始め、それが終わると手品を始めた。その手品とは、家を焼いているように見せ、すぐに元に戻してしまうというものと、相手を切り刻んで殺しても、すぐに復活させてしまうというものだった。シバルバーの住人たちは彼らの手品にすっかり感心し、自らの主のところへ連れて行こうとした。みすぼらしい男たちは最初は拒否したが、どうしてもと言われるので渋々シバルバーの主のところへ行くことになった。主たちの目の前に来ても彼らは乗り気ではなく、言われたとおりに犬や人、そしてフンアフプーを切り刻んで元通りに復活させた。彼らの手品にいたく感動したとみえるフン・カメーとヴクブ・カメーは、とうとう自分を切り刻んで復活させる手品をしてくれ、と彼らに頼んだ。彼らは言うとおりに2人を切り、そしてそのまま復活させなかった。
 シバルバーの住人たちは大パニックに陥り、あちこちに逃げ惑った。でも、谷間に逃げると蟻に追い出され、結局道にひれ伏して降参してしまった。そこで2人は自分たちの名前、そして父親の名前をシバルバーの住人たちに明かし、復讐をするために全員を殺す、と宣言した。シバルバーの住人たちは2人に謝罪し、兄弟はここでシバルバーの権限を大幅に狭めることを言い渡した。
 シバルバーはもはや権力もなければ球戯をすることもできない。優れた子供や礼儀正しい家来たちはシバルバーから遠ざかり、罪人、悪人、淋しくしている者、薄幸の者、悪徳に身を任せている者だけしか相手にすることができなくなった。

関連項目


参考資料 - 資料/254:


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Last-modified: 2008-08-21 (木) 12:23:31