タンニーン†Tannîn
תַּנִּין 地域・文化:ユダヤ教 水に棲む怪物。 「創世記」第1章21節に、まずタンニーンという単語が現れる。 その後も、旧約聖書には幾度となくタンニーンという言葉が現われる。それは上記のように普通の「蛇」を意味することもあれば、日本語で「竜」と訳されるような怪物として考えられていることもある。しかし、怪物としてのタンニーンについての記述を拾ってきてみても、レヴィアタンやラハブと同じく、この怪物についての具体的なストーリーや明確な特徴といったものはよくわからないままである。 以下、タンニーンという単語のある聖書の箇所を羅列。すべて新共同訳。 『ヨブ記』7章12節。 「わたしは海の怪物なのか竜なのか」 ここではヤームが「海の怪物」と訳されてる(普通は「海」と訳す)。「竜」はタンニーン。ヤームはウガリット神話に登場する、神バアルの宿敵である海の神(または魔神)ヤムと語源的に共通だし、タンニーンと並べてあるから、海の怪物と訳すほうが単に「海」と訳すよりも内容的には妥当なのだろう。英語だとseaとsea-monsterが並んでよく意味がわからなくなってる。 『詩篇』74章13~14節。 あなたは、御力をもって海を分け 大水の上で竜の頭を砕かれました レビヤタンの頭を打ち砕き それを砂漠の民の食糧とされたのもあなたです」 ここの「竜」は実はタンニーニム、つまり複数形である(レヴィアタンは単数形)。「海を分け」というのは、モーセ率いるイスラエルの人々が、エジプトを脱出するときに紅海を割って手助けをしたことである。『詩篇』は、神(モーセ)が海を割ったことを、海=竜を砕いたことにたとえている。また、読み方によっては、ほとんど同じ表現が繰り返されているレヴィアタンをタンニーニームそのもの、またはうち一頭だと考えることもできる。 『詩篇』148章7節。 「地において主を賛美せよ 海に住む竜よ、深淵よ」 とあるが、ここの「竜」もタンニーニームとなっている。深淵(テホーモート、テホームの複数形)と並べてある。 『イザヤ書』27章1節。 「その日[審判の日]、主は厳しく、大きく、強い剣をもって 逃げる蛇レビヤタン 曲がりくねる蛇レビヤタンを罰し また海にいる竜を殺される」 ここではタンニーン。「海にいる」と明記されている。詩篇74節と似たようなところだけど、詩篇が過去の出来事であるのに対し、イザヤ書は未来の出来事である。 『イザヤ書』51章9節。 「ラハブを切り裂き、竜を貫いたのは あなたではなかったか」 ここでは、続いて、詩篇74章のようにエジプト脱出のときの海割りのことが歌われている。「竜」はタンニーン。ラハブ(旧約時代の発音だとラハヴ)もまた、レヴィアタンと同じく、神話的な怪物だとされているもの。しかし、具体的な神話は知られていない。 『エレミヤ書』51章34節。 「バビロンの王ネブカドレツァルは わたしに食いつき、当惑させ 竜のように私を呑み込み 以下略」 まあ普通に、タンニーン。 このように、タンニーン(またはタンニーニーム)は、「海(の怪物)」、「レヴィアタン」、「深淵」、「ラハブ」と並べられていることがわかる。 広く古代オリエントでは、海というものが原初的な怪物と同義に考えられていた。 アラビアでは、ティンニーンという言葉で「竜」を意味する。 関連項目† |